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第38話 陽一サイド<水野皮膚科専門医>
颯太は今朝もまだ微熱があった。
オメガは身体が弱い。
疲れがたまったんだろう。
体調が悪いせいか、不安がって昨夜からずっと俺にくっついていた。
早朝から点滴をすると、お昼近くには少し元気が出たようだ。
「どう?お昼だけど、お粥は食べられる?」
「う~ん、分かんない。でもジャガイモのポタージュが食べたい」
ふ、少しは食欲が出たんだ。
すぐ由紀さんに連絡したら作ってくれた。
食卓に着くと、颯太は少しずつスプーンを運んで全部食べられた。
「院長、余分にポタージュをポットにご用意しましたので、また差し上げてください」
「ああ、すみませんね。ありがとう」
ポットを受け取ると、車椅子の颯太と一緒にミツワへ向かった。
着くと、会長室のベッドに寝かせる。
「ここに色々あるから、お腹が空いたら食べてね」
「うん、わかった」
枕元に水のペットボトルや、ポタージュのポット、バナナを置いて来た。
「颯太、時々様子を見に来るから大人しく寝てるんだよ」
「うん」素直に頷いて颯太は目を閉じた。
髪を撫でて、頬にキスをした。
財団の会議室に行くと、皆あわただしく動いていた。
申し訳なくて断りを入れた。今日は皆休日出勤なのだ。
「皆さん、遅くなりました。
颯太は会長室で横になっているので、時々覗きに行かせてください」
「はい、承知しました」皆の声が揃った。
「院長、颯太さんは大丈夫ですか?」
加護さんや他の皆さんが心配してくれていた。
「うん、ありがとう。微熱だし、朝は点滴をしたから大分いいよ」
「そうですか。今、第2会議室に応募者達が待っています。
受付と案内に、広報の田代さんと岡本さんが待機しています。
こちらがインカムで呼ぶと、第1会議室に面接者が入ってきます。
受付リストは画面共有しているので、こちらからもダイレクトに情報が分かります」
山下さんが説明してくれた。
「はい、分かりました。ありがとう。じゃあ始めましょうか?」
広報の小松さんが尋ねた。
「14時からは技師の時間なのですが、皮膚科希望の水野先生が見えているので、最初でいいですか?」
「はい、いいですよ。お呼びしてください」
「なんかこっちもドキドキしますね」と加護さん。
面接官は俺と加護さん、山川弁護士、小林さんの4人だ。
今日は時短の為、面接官の自己紹介代わりに、ドアの外側に名前と役職を提示している。
水野先生が部屋に入って来た。
「初めまして皮膚科専門医の水野さやかです。どうぞよろしくお願いします」
履歴書を皆で拝見した。
「ようこそ、院長の立花です。
早速ですが、詳細を知りたいと言う事でしたね?どんな内容ですか?」
「全部知りたいのですが、一番は保育所です。今子供が6か月なんです。どうでしょうか?」
「保育所関係はすべて未定ですが、一般に習って生後5か月からお受けしようと思っていますが、事情によっては例外もあります。
保育時間も未定ですが、働く方に合わせようと思っています」
「あ、そうなんですねえ……」
水野先生が急に気の抜けた表情になった。
「他に、水野先生のご希望はありますか?」
「寮もあるとのことで、子供と一緒に入ることはできますか?
今日は実家の母に預けて来たのですが、母も都合があってずっと頼むのは無理です。
それと車を持って来てもいいですか?」
「はい、いいですよ」
加護さんがなんか物を言いたそうに俺をちらちら見ていたが、続いて説明した。
「医師の場合は寮として、ミツワのホテルでもいいのですが、お子さんが小さいので社員寮の方が財団のそばにあるので便利だ思います。
部屋の広さは1LDKか、2DKがあったかな?それでよろしければ無料ですよ。
室内に浴室もありますが、大浴場もあるし、食事も財団で召し上がったらいいと思いますよ」
しばし、彼女は信じられないといった様子で茫然としていた。
ピンと来ないのかな?
「あとは何をお聞きになりたいですか?」と加護さん。
「あ、皮膚科はどこまでやればいいのか?と言うことです。
どこまで施設や機械が揃っているのかということですね」と水野さん。
「普通の皮膚科の診察室と、レーザー治療などが出来る手術室もあります。隣が会員制の爪外来をするので、爪の診察やアドバイスですね。ケアをスタッフに教えてあげて欲しいんです。なので、数か月前からスタッフの指導をお願いしたいです。
それから隣の別棟で、美容サロンをやるので、そこでの指導やアドバイスですね。
機器類や診療道具は先生の希望で取り入れてください。上限はありません。逆に必要なものを教えて欲しいです」
水野先生が目を丸くした。
「え、機械や道具を全部ですか?上限なしで?」
「はい、早めに教えてください。建物が出来るのは1年くらい先ですが、注文は早い方がいいですからね」
「あ、あ……なんか、何と言っていいか……」彼女は戸惑いながら少し笑っていた。
加護さんが口を開いた。
「こんなに良い条件は他では見つからないと思いますよ。
こちらではシングルマザーの応援もしようと思っているので、ご一緒に仕事をしませんか?
今なら思うように始められます。チャンスだと思いませんか?」
水野さんがぷっと笑っていた。
「いや~、だって話がうますぎるでしょう?えー、信じていいのかな?」
「信じるしかないでしょう?皮膚科希望の最初の方ですよ。優先権があります。
逆に伺いますが、爪外来スタッフの指導や面倒は見ていただけますか?
あと美容サロンもしっかりフォローをお願いしたいのですが、どうでしょうか?」と俺。
「それはもちろんですよ。
私も勉強してきたんですから、両方とも責任をもって教えます」と水野先生。
「あとは何か問題がありますか?」と加護さん。
「‥‥‥いえ、意気込んできたんですが、
肩透かしのようで、何も問題がなくなりました……」
ふふと笑いを含んだ困ったような表情をしていた。
「美容の方も、せっかく手術室を用意していますので、どんどんやって利益を上げてください。一番期待していますよ」
「わぁ~」笑っていた。
「どうされますか?いらっしゃるなら、早速打ち合わせの時間を取ってほしいのですが」と俺。
「はい、では……どうぞよろしくお願いします。寮と保育所も、ぜひお願いします。本当にありがたいです」
これで皮膚科医が決定した。
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