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第48話 陽一サイド<敏腕マネージャー>
社長室を出ると、営業部長が「……全く……」と捨て台詞を吐いて、俺を睨みつけた。
俺としては、ただ深々と頭を下げるしかなかった。
それほどまでに会社が期待していた、惜しい存在なのだろう。
営業部に代わりを立てられる人間が、いるのかどうかは知らないが、それはもう俺の預かり知らぬことだ。
白川さんは「夕方寄ります」と小さな声で言い残し、その場を去っていった。
きっと移動するまでの間、彼は営業部で針のむしろに座らされているようなものだろう。
営業から優秀な社員を二人も引き抜いた上に、今度はマネージャーまで連れ去るのだ。
営業部長に睨まれるのは無理もない。
しかし移動してきた広報の八坂さんと山辺さんには、あとでこっそりと褒めなくてはね。
それほどまでに彼女たちの目には、
俺たちが「先が見えていない、危うい状態」に映ったのだろう。
確かに、今のままでは加護部長が言っていた通りだ。
もどかしくて見ていられなかったに違いない。
だからこそ俺は一歩引き、有能な社員たちに思い切って任せようと思った。
きっとそれが、組織を大きくするための近道なのだ。
会長室に入ると、山川弁護士と小林さんに同席してもらった。
「どうされましたか? 何かあったんですか?」
二人は心配そうな顔を向けてくる。
俺はこれまでの事情をすべて話した。
白川さんが財団に来ること、
営業部長と人事部長に激しく睨まれたこと、
そして八坂さんと山辺さんが白川さんに「手が足りない」と直訴してくれたらしいこと。
話を聴き終えた二人は、思わず「ふふっ」と笑みをこぼした。
「いや~、院長思いの可愛いスタッフたちじゃないですか。大歓迎ですよ!」
小林さんが目を輝かせて喜んでくれる。
「それで、給料の話ですが……」と、山川弁護士が本題に切り込んだ。
「そうなんです。彼は今、年収どれくらいなんでしょうか?」
「おそらく、1100万から1200万円の間くらいでしょうね」
「前職と同じでも良いでしょうか? できれば、今と同等の給料を出してあげたいんです。
どちらにせよ、外部から支配人や管理職クラスを募集しているわけですから、それらの人たちより高くなるかもしれませんが、ここはどうかよろしくお願いします」
「はい、かしこまりました。ちなみに役職はどうされますか?」
「それなんですが、俺は全体的に一歩下がり、彼にしっかりとした権限を持ってもらいたいと思っています。
俺はクリニックの医師や技師の人事権だけに絞る。
ナースや看護助手は加護部長の権限です。
爪ケアスタッフや美容サロンなどは水野医師と相談しつつ、加護部長の管轄にする。
管理部と総務部は小林さんにお願いする。
そして、加護部長が医療福祉部を率いるなら、それ以外の営業分野や現場全般を統括する『支配人』として、人事権も含めた強い権限を白川さんに渡したいんです。それならどうでしょうか?」
「良いですね。それだけの権限を持たせるなら、前職同等の給料も十分に妥当です。小林さん、どうですか?」と弁護士が水を向ける。
「はい、私も大賛成です。これを機に、新たな人事権や管轄をはっきり明記した組織図に刷新した方がいいですね」と小林さんが力強く頷いた。
「それから、清掃や整備、バスのドライバーの管理業務ですが、この辺りは総務部として小林さんの人事権に合わせてお任せしたいです。
家政婦さんたちは『生活トレーナー』として、医療福祉部の加護部長の管轄が適任でしょう。
肝心のガーデンに関しては、専門的な知識がないと無理ですから、本職として学んできた強力なリーダーを探しましょう」
「それは素晴らしいですね」
二人が快く合意してくれた。
会議室に戻ると、皆が俺の顔を見て一瞬息を呑んだ。
俺の最初の言葉を待っている。
皆の表情には、少しばかりの笑みが隠しきれていなかった。
「あのね、営業部マネージャーの白川さんが、財団に来たいそうだ。もう決定だよ」
瞬間、わーっと歓声が上がり、会議室に大きな拍手喝采が起きた。
「それで、彼には財団の営業全体を管轄する支配人として、人事権も含めて采配を振るってもらうつもりです。いいでしょうか?」
「はいっ!」
またしても見事に声が揃う。
……いや、なんだか少し悔しいくらいだ。
「もしかして、八坂さんと山辺さんがマネージャーに直訴してくれたのかなあ?」
山下さんが面白そうに頬を緩めて言った。
「そうらしいよ。あとで頭を撫でてやらなくちゃいけないな。
早速夕方に白川さんがここに来てくれるらしいから、八坂さんと山辺さんにも『ちょっと寄ってほしい』とメールしておいてくれますか?」
「はい、了解です!」山下さんが手際よくスマホを操作した。
「それからもう一つ。彼が来ることで、財団の権限と組織図を大幅に刷新します。
加護部長はこれまで通り、医療福祉部の部長としてナースや看護助手、爪ケア、美容サロンのスタッフ、そして保育士の人事権を持つ。
俺は医師や技師の人事権に絞る。これでいいかな?」
「はい、承知しました。それにしても、まさかあんな凄いところから強力な援軍が来てくれるなんて……万々歳じゃないですか!」
加護部長が、我がことのように喜んでいる。
「そういえば、イタリア小物のショップはどうする?」
岡本さんと小松さんに視線を向けた。
「やりたい気持ちはあるんですけど、今の仕事が手一杯で、どこから手を付ければいいのか……」と岡本さん。
「そうなんですよ。まだ弱者たちの面接さえ回し切れていないので、ここで一人でも現場から抜けるのは正直厳しいんです」と小松さんも困り顔を浮かべる。
「そこなんだけど、来週から営業関係や現場のマネジメント権限はすべて白川さんに一任します。
だから、今後は彼の指示に従ってもらえますか?」
「はい、わかりました!」
二人は心の底からホッとしたような、柔らかい表情を見せた。
やはり、同じ社内で実績を積んできた信頼できるリーダーだからこそ、素直に頼れるのだろう。
外部から見知らぬ人をいきなり引っ張ってくるよりも、結果的に大正解だったのかもしれない。
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