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第49話 陽一サイド<天使たち>

 今週は代休も取れなくて、全員水木を休みにしてもらった。 そして日曜日、急遽呼びかけた弱者達がミツワに集まった。 いや、もう「弱者」とは呼ばないことになった。 白川支配人曰く、 「何か違う気がする」そうだ。 「弱者にもいろいろあるから、一概に弱いとは限らないと思うんですよ」 「では、なんと呼んだらいいと思いますか?」と聞くと、 「じゃあ、天使にしますか?」と言いながら、彼がぷっと吹き出していた。 でも皆が賛成したから、これからは彼らを「天使」と呼ぶことになった。 面白いね。その発想は一理あるなと思った。 小林さんもこの日のために、奔走して不動産を探しまくってくれた。 そしてうれしいことに、白川支配人が1日前倒しで、日曜日に終日出勤をしてくれた。 本来なら月曜日からが正式な財団への移籍なのだが、 「初めて天使たちが集まるなら、私も外せません」だって。 これを聞いただけで、もう俺の肩の荷がスッと降りた気がした。 そして朝から、ミツワのイベントホールに集まってもらった。 人数は58人。それぞれに複雑な事情や問題を抱えた人たちだ。 最初にスタッフを紹介して挨拶を交わす。 顔を忘れられないように、全員の顔写真が入った紹介リストを配布した。 ほかにも、財団の大まかな組織図やガーデン内予想図のチラシ、職種ごとの内容を記載した資料を配る。 さらに、すぐ入職したいかの確認や、制服を用意するための身体サイズの計測、そして質問を書き込んでもらうための用紙を配った。 皆の前でテキパキと説明するのは、白川支配人だ。 彼は金曜の夕方から夜にかけて、これまでの引き継ぎ事項を一気に録音メモで記録してくれていた。 財団の概要や資料はすべてコピーして渡してある。 こうして振り返ってみれば、俺が抱えていた引き継ぎの荷物なんて、特に何もなかったなと改めて思う。 ……今まで俺は、いったい何に手こずっていたのだろう? 出席者たちは、すぐ財団に入りたい人と、オープンまで待てる人に分けた。 すぐに入りたい人は36人。 その中で、住まいも一緒に引っ越したいと希望したのは28人だ。 すべての説明が一通り終わり、今度は小林さんがマイクを握った。 「財団のビルは、完成までまだ1年かかります。ですので、当面の間に合わせにはなりますが、できるだけ近隣の物件をかき集めました。 人数が多いので個室は無理です。お互いにスペースを共有し、少し我慢してもらうことになります。 その代わり、家賃は無料にしました。……よろしいでしょうか?」 「はい」 集まった人たちから、素直な返事が返ってきた。 ガーデンの道向かいに取得した家のうち2軒は、しばらく寮として使うことになった。 1部屋を2人で使うから、それぞれ8人ずつが入る。 ほかに、港区にある立花家所有のマンションに6人。 アパートに2名ずつで3室。以上で28名分だ。 本当に、手配してくれた小林さんには苦労をかけてしまった。 「荷物は極力処分してほしい」といった説明書きを各自に渡した。 新しい住居には生活必需品がすべて揃っているからだ。 すべて契約済みで、電気・ガス・水道の手続きも済ませてあるそうだ。 さぞ大変だっただろう。ありがたいことだ。 明日から1週間の間に、引っ越しが始まる。 一人につき、軽トラック1台に載る量なら無料だ。 寝具は持参するか、財団が用意した小さな折り畳みソファベッドにするか選んでもらう。 部屋の鍵はその日のうちに全員へ渡した。 暗証番号タイプのロックもあるから、管理の面でも助かる。 人数分けも、それぞれの事情に合わせてこちらで振り分けたが……大丈夫かなぁ。 いきなり知らない人と同じ部屋で暮らすことになるのだから。 そんな心配をよそに、加護部長が厳し~いお達しを言い放っていた。 「ゴミを捨てないで散らかす人、洗い物をしないで溜める人。 荷物を片付けないで散らかす人、洗濯物を溜めて臭くする人。喫煙する人。 すべて見つけ次第、すぐに退去してもらいます。しょっちゅうチェックに行きます。 各自がしっかりしないと、自立した生活はできません。 財団でもこれ以上はお引き受けできませんので、そのつもりでいてください」 皆、すっかり俯き加減でその言葉を聞いている。 あまりの厳しさに、恐れをなしたのだろうか。 ふと目をやると、白川支配人と視線が合った。 彼は笑いを必死に堪えながら、慌てて神妙な顔つきを作っていた。 実際の活動は、引っ越しが完了した翌週からになる。 それまでに財団側で仕事をしっかりと振り分け、研修予定を立てなければならない。 それから、調剤薬局&ドラッグストアの会社からも返事が揃った。 「早かったですなあ~」と山川弁護士が感心したように言っている。 この選定は、月曜以降に白川支配人に決めてもらおうと思う。 俺は肩の荷がすっかり降りて、本当に楽になった。助かった! 俺はやっぱり、営業には向かないんだなと思った。 だって、本物のプロと比べたら能力が違い過ぎるんだもん。 今夜は颯太と、ゆっくりワインでも飲むか。

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