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第50話 颯太サイド<料亭にて>

 先生が急に楽になったと喜んでいた。 ミツワの営業のマネージャーが志願して財団に来てくれたんだって。 超!ありがたいよ~。 これで先生との時間も取れるしね。 あれから先生は、ダンスレッスンに行けていない。 今までが忙しすぎたんだよ。 楓姉さんから、 「たまにはみんなで夕食会に行こうよ」とお誘いがかかった。 「行きた~い!」って、思わず声に出して叫んじゃった。 先生に伝えたら、 「夜なら行けるから、たまには高級なところに行って、慰労会をしてあげようか?」ということになった。 それで、この前の新橋の料亭に行くことにした。 あそこはお義父さんもお義母さんもすごく喜んでくれたもんねえ~。 先生のリラックスした表情は、本当に久しぶりに見た! すごくうれしい。 料亭に着くと、お義母さんたちが先に来ていて、ものすごく喜んで迎えてくれた。 今日はみんな、おしゃれをしてるなあ。 お義母さんが「ああ~幸せ~」だって。 少しあとから来た楓姉さんも、全く同じことを言っていた。 俺は、みんなのそんな穏やかな声を聞けただけでもうれしい。 「颯太は久しぶりだなあ。元気にしていたのか?」 お義父さんが優しく声を掛けてくれた。 「そうよ~、颯太の顔を見れなくて寂しかったのよ~」 お義母さんにしっかり手を握られた。ふふ。 予約された個室に入ると、上品な着物姿の料亭の女将さんが挨拶に来てくれた。 先生がなんか丁寧に応対していたけど、お腹がペコペコな俺はすっかり上の空だった。 早く美味しいものが食べた~い。 こういうところは、楓姉さんと俺は似ている。 「父さん、新しいマンションのプランは進んでいるんですか?」と、先生が話題を切り出す。 「いや、全然だね。まだ要望も聞かれてないよ。 今は地質の調査をしているから、終わらないと無理じゃないか?」とお義父さんが苦笑いした。 「ああ、そうだよね。地質の調査が一番大事だって言ってたよ」と先生がうなずく。 そのタイミングを見計らったように、目にも美しいお料理が次々と運ばれてきた。 女性陣はそのたびに目を輝かせ、釘付けになっている。 「わ~きれい、これなあに?」とお品書きと照らし合わせて、すっかりはしゃいでいた。 「じゃあ、乾杯しようよ。父さん、音頭をお願いします」 先生の号令で、全員がグラスを手に持った。 「はい、では皆の健康と幸せを祈って、かんぱ~い!」 カチン、と心地いいグラスの音が響く。 俺は喉を潤すために、自分のグラスの飲み物を一気に飲み干した。 もちろん、俺はノンアルコールだけどね。 「最近は財団の方はどうなんだ?」と、お義父さんがワイングラスを置きながら尋ねる。 「それがさ、びっくりすることがあってさ、 なんとミツワの営業のマネージャーが志願して財団に入ってくれたんだよ」と先生。 「へえ~すごいね、なんでまた?だって給料が大幅に下がるんじゃないのか?」とお義父さんが首をかしげる。 そうなんだ。財団だと給料が安いのかな?それだと申し訳ないよ。 あとで先生に詳しく聞こう。 「そうなんだよ。それよりさ、彼の頭脳明晰さといったらさ、凄すぎだよ。 引継ぎで、金曜の夕方から夜にかけて一気にしゃべったことを録音メモしてさ。それで今までの財団の詳細プリントを渡しただけだよ。 たったそれだけで、翌々日の日曜日に財団入居希望者を58人集めて、そこで普通に支配人として喋ってるんだよ。 俺は参ったよ。今までの俺は何だったのか?って思ってさ。 もう青天の霹靂だったよ」 「うわっはっは~」とお義父さんが豪快に大笑いした。 「上には上がいるもんだなあ~」だってさ。 「俺がいかに営業に向いていないかが分かったよ。今は拗ねてるとこさ」と先生が少し苦笑いする。 今度は俺がちょっと笑っちゃった。 「先生でも拗ねることがあるの?俺うれしいな~」 テーブルの下で先生の手をぎゅと握った。これは俺なりの慰めだよ。 そこへ、友則さんがワイングラスを傾けながら口を開いた。 「お義兄さん、ミツワのエリートって本当に頭がいいんですねえ。 この前会議室に伺って、広報のスタッフの皆さんには驚きましたよ。 僕はあれだとちょっと気が抜けなくて疲れるかもです」と友則さん。 「ちょっと、友則さん、それどういうこと?」 楓姉さんがジトッと抗議の目を向ける。 皆で思わず笑ってしまった。 「もう、お兄さん、お義姉さんに失礼でしょう?」って、隣の紀子さんがたしなめるように注意していた。 良いなあ~家族は気が置けなくて。 「いや、それくらいすごかったんだよ。マジで」 あわてて友則さんが両手を振って言い訳をしていた。 えへへへ。あれはあとで家に帰ってから大変だよ~。 次は淳一さんが、お酒のグラスを片手に先生に聞いてた。 「陽一兄さん、どうなの?病院を離れてさ。俺はめちゃくちゃ苦労してるんだぜ」 また皆で和やかに笑い合う。 「淳一の苦労なんて、たいしたことないだろう?」って先生がサラリとかわした。 それでまたみんながドッと笑った。 「そうだよ、陽一は財団と院長と両方やってたんだから。お前も頑張れ」 とお父さんからしっかりとはっぱを掛けられていた。 「颯太は、音楽の方はどうなの?」 お義母さんが優しく目を細めて聞いてくれた。 「えっとね、新しいMVを出したんだよ。 新曲なんだ、ダンスもカッコいいんだよ」 「へえ~」と、皆が感心したように聞き入ってくれる。 「じゃあ、そっと小さく聞いちゃう?」 「うんうん」って皆が聞きたがったから、俺はスマホを取り出してMVを流した。 今度の曲は、自分でもすごく素敵だと思うんだ。 発売したばかりだけどさ。 もうヒットチャートのベストテンにランクインしてるんだよ。やったー。 みんなが曲を静かに聞きながら、目の前の上品な料理に箸を伸ばしている。 曲が終わると、皆が温かい拍手をしてくれた。 「すごいじゃん」と楓姉さんが誇らしそうに微笑む。 皆もそれぞれ褒めてくれたけど、 「颯太、やっぱり歌がうまいね。声がきれいだしさ、ここだけで聞くのが勿体ないよ」 そう言って、隣の先生が頭をなでて褒めてくれたのが一番うれしい。 テーブルの下で、先生がまた手をぎゅと握り返してくれた。えへへへ。

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