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第53話 陽一サイド<武勇伝のひみつ>

 支配人の話は続く。 「それで、これからもっともっと忙しくなるはずだと思って、私も思い切りました。 財団の内容は逐一二人から聞いていて、私なりに話をまとめていました。そして今後はどうするべきなのか――そんな余計なことまで、頭の中ではとっくに展開していたんです。 財団の資料のプリントは二人に添付してもらっていたので、すべて頭に入っていました。 あとは、聞いていない部分を細かく埋めていくだけだったんですよ。 だから、全然武勇伝なんかじゃありません」 こんな熱い思いを、自分が知らぬところで受けてくれていたんだと思うと、身体が浮き立つような嬉しさと深い感動が込み上げてきた。 「そうだったんですねえ。そんなに真剣に考えてくださった方がいたなんて……もう感動しますよ。本当にありがとうございます」 俺が心からの感謝を伝えると、目頭がちょっと熱くなった。 ふと隣を見ると、颯太も感動したようで、頬をゆるませてこっそり涙ぐんでいる。 しかし、白川支配人の熱い語りはさらに続く。 「それがですね、実は私だけじゃないんですよ。 ミツワの各部署にも、財団の仕事をやりたがっている人間は結構いるんです」 「は? そうなんですか、 本当ですか?」 今度は小林さんが目を丸くして驚いていた。 「本当です。声をかけたら、やりたい人間はいくらでも出てきますよ。 営業の女子なんて『颯太さんや達也さんのファンクラブの仕事がしたい!』って言っていましたからね。 それに、私もまだ数日しか経っていませんが、財団の仕事はもっと細分化して、早めに人を分けた方がいいと思いました」 「例えば、どういう風にですか?」 俺は前のめりになり、もっと教えてほしいと促した。 「まずメインのガーデンですね。責任者をすぐに採用し、トレーナーも数人確保する。そして、すぐにでもガーデンスタッフへ指導を開始してほしいです。 それと、センスの良いフラワーデザイナーの確保ですね。 ガーデンショップがありますから、売り物としてきちんとデザインされたものを扱ってほしいんです。 まあ、今はまだ見つけて確保する段階で十分ですが。 あとはキッチンです。料理の練習ができる場所が絶対に必要なんですよ。 建物が完成してから始めるのでは遅い気がします。 プロを採用すれば回るのでしょうが、初めての天使たちも一緒にやるとなると、基本的な修業や訓練が必要になると思うんです。 せっかく、こんなに素晴らしいお料理を作ってくださる方々がここにいらっしゃるのだから、今すぐスタッフには練習を始めてほしい。 もちろん、将来の財団ホテルの厨房としても、メニューの開発や、スタッフに出す食事の調理を兼ねて練習する場にしてほしいですね。 それと、イタリアの小物を扱うショップですね。 これは商品選びや在庫の確保、販路を決めていくのに結構な手間がかかるはずです。 広報の二人がやりたがっているし、一から苦労して覚えてもらうといい。すごく勉強になって身に付くはずですから、これもすぐ始めていいと思います。 場所ですが……これからドラッグストアの建設を予定していますよね? あれは財団でお金を払って建てる箱ですから、オープンの二か月前まではこっちの自由に使えるはずです。 そこで小物のショップの準備を進めておけば、店舗が完成したときに商品をそのまま移すだけで、双方が十分に間に合いますよ」 ここで、隣に座っていた颯太がそっと俺をつつき、小さな声で「乾杯……」と呟いた。 「あ、そうだ。ごめんなさい、乾杯だ。 では、皆さんをお待たせしました。支配人、改めて乾杯をしましょうか?」 「あ、ああっ、ごめんなさい! ついつい熱くなってしまって……皆さん、本当に失礼しました」 白川さんはハッと気づいたように、申し訳なさそうに小さくなった。 「では、勝手に音頭を取らせてもらいます! 白川支配人、ようこそ我が家へ! どうぞ財団をよろしくお願いします。――かんぱーい!」 「かんぱーい!」 ようやく全員でグラスを合わせる。 美しい料理を目の前にしながらずっと待たせてしまった皆に、少しだけ心の中で「申し訳ない」と謝ったのだった。 そして、料理は本当にいつも以上に美味しかった。 きっとすごく気を使ってくれたんだろうなあ。 ――なにせ、我が財団を仕切る支配人だもんねえ。 「あのう、ちょっと支配人に伺ってもいいでしょうか?」 碧人くんが、少し遠慮がちに声を上げる。 「はい、いいですよ。何でしょうか?」 「俺は来年、財団に就職が決まっているんですけど……夏休みとか、財団のお手伝いをした方がいいのかなと思ったんです。まだ早いですか?」 支配人はふっと口元を緩め、ニヤッと笑った。 「碧人くんのことは院長から聞いていますよ。すごく頼もしいと思っています。 もし時間が取れるなら、アルバイトとして採用しますから、空いている時間はぜひ財団に顔を出してください。これから君に把握してほしいことが、山ほどありますからね」 そこで、陽菜ちゃんがぽつりと小さく手を上げた。――珍しい! 「あのう、私もいいですか? 私も来年、多分……高校を卒業できると思うんですけど、カフェの仕事をしたいなと思っているんです。 夏休みとか、やっぱり早めに練習しておいた方がいいですよね? それと、同級生の女の子も一緒に仕事がしたいって言ってるんですけど……ダメでしょうか?」 それを聞いた支配人は、ますます嬉しそうに顔をほころばせた。 「陽菜ちゃんだね? 身体が少し弱いと聞いているから、無理をしすぎる必要はないけれど、夏休みに午前中だけとか、負担にならない範囲で練習に参加するのは大歓迎ですよ。 もちろんアルバイトとして採用します。お友達も一緒に連れて来てください。 でもね、カフェの仕事って、基本は決まった動作の連続なんだよ。だから1か月もやれば嫌でも体で覚えちゃうし、そんなに難しいことじゃない。 コーヒーマシンの使い方やドリンクの作り方も、専門のトレーナーが来てしっかり教えてくれるから、全然心配しなくて大丈夫ですよ」 「はい、分かりました、ありがとうございます……」 陽菜ちゃんは恥ずかしそうにはにかんだ。 今度は、里奈ちゃんがそっと手を上げる。 「はい、里奈ちゃんだね。どうぞ」 「あのう、私はまだ高校2年生なんですけど……。将来はパティシエを目指したいと思っていて、製菓の専門学校に行かせていただきたいんです。あの、そういう進路でも大丈夫でしょうか? それと、卒業したら財団でお仕事をさせてもらえますか?」 支配人が、さっと俺の方を見た。俺は慌ててすぐに頷き返す。 ――あ、やばい。里奈ちゃんの奨学金の話、まだ支配人にしていなかった……失敗だ! 「はい、もちろん分かっていますよ。学校に行きながらでもいいし、将来的に財団で仕事をするのも大歓迎です。大丈夫ですよ。もし夏休みにアルバイトをしたかったら、いつでも財団で引き受けますからね」 支配人の心強い言葉に、 里奈ちゃんも「はい、分かりました! よろしくお願いします」と、心底ほっとしたような笑顔を見せた。 この夜は、未来の夢や財団の話題ですっかり盛り上がり、いつまでも尽きることがなかった。

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