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第57話 陽一サイド<子犬>
友則さんが買い付けに一緒に行くと決まって、数回打ち合わせがあった。
最後の打ち合わせの終了後、ちょっと小声で聞いた。
「よく楓が一緒に行くって言わなかったね?」
”うぷっ”と口に手を当て苦笑いをしていた。
「いや~もう大変でしたよ。毎日一緒に行きたいコールで参りました……」
ヘナっとする感じで彼が肩を落とした。目に浮かぶよ。
しかも楓の知っているイタリアは、ファーストクラスで往復し、ホテルはすべて5つ星で、レストランも最上級の記憶しかないから、2回目に行くのは大変だよ。
それよりクラスが落ちると――満足するわけがない。へへへ。
気の毒に……頑張れ。
そんな彼の苦労を察して吹き出しそうなのを我慢した。
「そうだよね?なんかそんな気がしていたよ」
我が妹ながら申し訳ないねえ~。
「だからさ、行ったついでに三上バッグ店の買い付けも、一緒にして来ればいいんじゃない?」
それくらいの役得がないとやってられないだろう。
「えへへへ」と笑っていた。
「いや、実は最初の電話があった時に父に確認したんですが、ついでにうちの分も買って来いって言われたんですよ」
なるほど、商売人としては当然の流れだろう。
「それは全然かまわないよ。今度の買い付けは慣れない3人いるからさ。
ゆっくり商品を見ることに集中できるように、SPを2名付けたし、アテンドやホテルと車の手配もしてあるから、安心して買い付けに集中してきてください」
そう言うと「もう~」と、すぐにでも俺にしがみ付きそうな表情を浮かべた。
「本当にお義兄さん、いつもすみません、最高にありがたいですよ。
実は皆で商品に見惚れてる間にスリに合わないか?ってそれが一番プレッシャーだったんですよ」
「うん、多分そうだと思ったよ。自分も買い付けしないといけないなら、集中力が散漫になるし、バッグだって皆忘れるさ」
「はい、本当に助かります!お義兄さん、大好きです!」
熱いまなざしを真正面から受けて、固く手を握られた。
まあ、男に好かれてもなあ……。
いや、颯太も男だけど、ちょっと違う。
颯太は女性よりも女性らしいというか、ある時は俺の子供になるしな。
まあ、そういうわけで、華々しく4人は羽田からイタリアへ出発した。
仕事だから全員往復はエコノミー席だ。
最後のローマでは和食の会席料理店を予約しておいた。
俺からプレゼントだ。お疲れ様の打ち上げ会にしてもらおう。
ただ支配人には財団のブラックカードを渡した。
「え、ブラックカードですか?初めて見ました。どうしよう、腹巻に入れないと怖いですよね?」って言ってたけど、結局はどうしたんだろう。
見送った後は、加護さんと二人で頑張るしかない。
加護さんは気が付くと、個室のブースに入っている光永先生をチラチラと見つめていた。
気持は分かるよ。精神科の光永先生はいいよねえ。
スマートで感じが良いもん。
夕方17時にはミツワからホテルに戻り、確実にオンラインの自費診療をやってくれていた。
ありがたい。財団で稼いでくれるのは彼一人だけだよ。
ところで16時には颯太が事務室に来るんだけど、今日は来る時点で動作が鈍くて疲れた顔をしていた。
「颯太、どうしたの?疲れたの?」
コクリと頷いた。
「今日はね、渋谷のモールでイベントに行ってきたの。だって断れなかったんだもん。
コンサートを断ってるからさ。
少しはやってもらわないと困るって、社長と夏さんに言われたー!」
早速俺に言いつけた。まるで子犬だな。
”そんなことは当り前だろ”と思うが、ふんふんと聞いていた。
そろそろ商売について教えた方が良いな。
社長と夏さんにはどんどん厳しくしてほしい。
メールでも送っておこうか。
「ねえ、疲れたから先生も一緒に帰ってぇ~」
みんながいるのに、俺の服の端っこを掴んで引っ張った。
もう甘えん坊が全開だ。しょうがないな……。
全く、ミツワのTOPがこんな調子でいいのか?
加護さんも背中を向けて、笑いを堪えているようだった。
肩が揺れてバレバレだ。
「じゃあ、加護部長、すみませんが、ちょっとお先に上がって良いですか?それとも一緒に帰りますか?」
「あ、いえ、私は最後の締めをやってから帰りますから、ご遠慮なくどうぞお帰り下さい」
「そうですか?すみませんね。ではお先に失礼します」
帰ると、もう玄関でばたっという感じで座り込んだ。
「颯太。2階に行くよ」
「引っ張ってぇ~」と両手を出した。
どうする?この甘え地獄。
由紀さん達がそれを見て、「あらあら……」と颯太と俺を交互に見つめていた。
「由紀さん、すみませんがポタージュを一杯くれますか?
インスタントでもいいですよ。それを飲ませてすぐ寝かせますので」
「はい、かしこまりました、2階にお持ちします。お夕食もお弁当にしましょうか?」
「はい、いいですか?助かるなあ。お願いしますね」
結局、抱えるようにして2階に行き、ポタージュを飲ませた。
その後は、背中を支えながら歯磨きを終え、すぐベッドに放り込んだ。
さすがに「一緒に寝て~」とは言わなかったから、相当気を使って疲れたんだろう。
この調子だとコンサートなんかとんでもないって感じだな。
その点、吉沢達也君はどうしているんだろう?
ちょっとネットから事務所の内部スケジュールを見せてもらうと、みっちりと演奏会などの予定が入っていた。
偉いねえ~。俺が甘やかしすぎなのかな?
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