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第62話 陽一サイド<荷物の嵐>

 それから更に10日間が経ち、イタリア組がようやく帰国して2日間の代休と休養を終えた。 今日は待ちに待った出勤日だ。 「どんな顔して出て来るのかな?」 事務所のメンバーも口々に同じことを言い合っている。 誰かが「日焼けして帰ってくるんじゃないの?」なんて冗談を飛ばしていた。 そして迎えた朝、みんな両手いっぱいに抱えきれないほどのお土産を抱えて出勤してきた。 早速、支配人が皆をフロアに集めて朝礼を始める。 「皆さん、長い間お世話を掛けました。本当にありがとうございました。イタリアは最高でした!」 って、おい。すっかり満喫してきたらしい。 ははっ、まあ無事に帰ってきたのだから結構なことだ。 小松さんも岡本さんも、それぞれに大仕事をやり切ったという、心地よい達成感を全身から漂わせている。 ひとしきり挨拶が終わると、支配人がそっとポケットからブラックカードを取り出し、俺に差し出した。 「すみません、院長。……実は、かなり盛大に使ってしまいました。本当に申し訳ないです」 深々と頭を下げる支配人に、俺は苦笑しながら手を振る。 「良いよ、使うために渡したんだからさ。で、思うように買い付けは出来たの?」 「はい! お陰様で事前の準備をしっかりしたので、安心して買い付けが出来ました。 それに、友則さんのアドバイスやフォローが最高で、本当に助かりましたよ。何よりSPがすごくありがたかった。お陰様でスリの被害にも遭わず、完全に買い物に集中できました」 「はいはい、そりゃあ何よりで良かったですね。ただね、すでに先発の荷物でドラッグストアはパンパンですよ。このあと本命の船便が入るけど、全部入るのかなあ?」 俺のその言葉に、支配人は冷や汗を拭うように顔を歪めた。 「それなんですよ…… 私も、下手をしたらとんでもないことになるんじゃないかって、内心すごく心配していたんです」 「こうなったら、焼き物とかタイルや花台なんかは、ミツワの地下駐車場の一角にフェンスでも囲って保管したらどうですか?」 「そうですよね……私もそうするしかないかなって思っていました。でも……また会議室を借りたりしたら、周囲からうるさく言われますよね?」 くくっ、と思わず喉の奥で笑いが漏れる。 なんだかんだ言いながら、もうやる気満々じゃん。 「まあ、期間にもよるんじゃない? 一度上の人に聞いてみたら?」 「はい、そうさせていただきます……」 さっきまでの威勢はどこへやら、急に小さくなって肩をすぼめる支配人だった。 それにしても、本当に困ったことになった。 財団ビルさえ完成してしまえばいくらでも置き場所はあるというのに……。 だが、そこでふと閃いた。 「あのさ、もうすぐ新しい社員寮ができるでしょう?あそこの部屋を2つくらい、一時的に借りられないかな?」 「社員寮ですか?」 「そう。空調が利かないと傷むものもあるでしょう?バッグや革製品、生地類、それにベネチアンガラスみたいな高価なものなら、当面はそこに入れておくのが一番安全だと思うよ。すぐに部屋が満室になるわけでもないしね」 「あ、それいいですね! 助かります」 その時は安直にそう思ったのだが……。 待てよ。そもそも船便って、一体どれくらいの物量が届くものなんだ? ふと、嫌な汗が背中を伝う。 まさか、本当にコンテナごと届いたりしないよな……? ……いや、嫌な予感しかしない。 これは絶対、来るパターンだ。 「もしかしてコンテナごと借りた?」 「あ、えへへへ、分かります?」 もう笑うしかないらしい。 こうなったら、解決方法は一つしかなかった。 俺はすぐさま支配人を連れて、設計担当の未来さんのもとへと駆け込んだ。 案の定、俺の顔を見るなり、未来さんはあからさまに嫌そうな顔をする。 そして、こちらの口を開くより早く、 「もうダメですよ! 無理です!」と先手を打たれてしまった(笑) 「いや、一応、話だけでも聞いてくれませんかね?」 「何ですか?」 未来さんは両手でしっかりと両耳を塞ぎながら、頑なに拒絶の姿勢を見せる。 その子供っぽい仕草におかしくなり、横で聞いていた支配人も「アハハハ」と肩を揺らして笑っていた。 「まあまあ、そう言わずにさ。実はねえ、イタリアから買ってきた荷物の物量がちょっと凄まじくて、置くところがどこにもないんですよ!」 「……」 「プレハブでもいいし、雨漏りがしなくて空調さえ付けば何でもいいんです。 とにかく倉庫が足りないんですよ、何とかならないかなあ?」 「……」 「本当は、イタリアのショップだけでも先に作ってもらえると、店頭に並べて随分荷物が減るんだけどなあ~」 必死に畳み掛けると、未来さんはようやく両耳を塞いでいた手をゆっくりと外した。 「……あ、そうですか。ショップねえ。 まあ、全体の工事も大分整ってきましたし、そろそろ先にそっちを進めましょうか」 「おおっ、本当ですか! じゃあお願いしますよ。ただね、バックストックも相当大きくないと絶対に無理なんです。なにせ、もの凄い量なんですから。そこを何とか、助けてくださいよ。 いっそ駐車場のスペースを2台分くらい潰して、臨時の倉庫にしてもいいくらいなんですよ」 「は? また設計の変更ですか?」 「いや実はですね……」 俺は意を決して、ぶっちゃけた。 「――実はね、コンテナごと届くらしいんです」 「は……? コンテナって、あのコンテナですか? 一体どこに置くんですかー!」 未来さんの絶叫が響き渡る横で、支配人は完全に顔を背け、必死に笑いを堪えていた。

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