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第64話 颯太サイド<最後のコンサート>
浅田タワーのきらら大ホール、2000人収容の客席のチケットは、即日完売だった。
えー、俺がゲスト出演だからって?
いや、そんなに甘くないか(笑)
本来は吉沢達也のコンサートなんだけど、事務所のごり押しでゲスト出演が俺、柚音(ゆおん)だった。
コンサートの前半は達也のオンステージだ。
パワフルに歌い上げ、ダンスメンバーとも息の合ったパフォーマンスを見せている。
それが50分ほど続いて中盤へ突入する。
司会者のゲスト紹介を合図に、俺が登場して持ち歌のヒット曲を2曲ほど、しっとりと一人で歌い上げた。
その次は、達也と二人でデュエットだ。
テンポのある楽しい曲を選び、軽くステップを踏みながら歌う。
少しずつ会場が温まったところで、本編の起爆剤――BTSの「Dynamite」だ。
みんなで文字通り必死でダンスの練習をしたナンバーで、ボーカルも交互にスイッチする。
ダンスメンバーを含めたフォーメーションは完璧だ。
これには、会場も一気に大爆発した!! ありがとう!BTS。
演奏は事務所所属のバンド演奏だ。
スクリーンに映し出される派手な映像も手伝って、最高潮の盛り上がりを見せる。
それが終わると、ステージは一気にクールダウンへ。
舞台の雰囲気がガラリと変わり、スクリーンに美しい映像が投影されると同時にナレーターが登場し、「アラジン」の物語を紡ぎ出す。
プロジェクションマッピングが会場全体を幻想的に包み込み、観客の感嘆のため息を誘った。
その裏で、俺たちは素早く着替え、水を飲み、酸素を吸って息を整える。
やがて呼吸が落ち着いたところで、俺と達也はミュージカルの舞台を思わせるクラシカルな衣装に身を包んで再登場した。
マッピングの幻想的な光が流れる中、そっと二人の歌声が響き渡る。
曲はアラジンから「ホール・ニュー・ワールド」。
美しいメロディーを、お互いに見つめ合いながら掛け合いで歌い上げる。
選んだのは英語詞だ。
英語が苦手だと言っていたくせに、本番の達也の発音は抜群に良かった。
バックではダンサーたちが控えめに優雅なステップを踏み、ステージをさらに引き立ててくれる。
これが大受けだった。
俺と達也の透明感のある声が、驚くほどきれいに溶け合うんだよな。
マッピングの演出が終わり、いよいよステージはラストへ向かう。
バックの映像も鮮やかに切り替わった。
曲は「美女と野獣」
歌声が滑り出すように始まる。
♪すばらしい~ものがたり~
おずおずと~ふれあうわ~ 指と指~♪
二人でデュエットしながら、決して静かすぎず、かといって華やかさを失わない絶妙な美しさで歌い上げる。
俺と達也の声は、どこまでもきれいにホールに響き渡った。
この曲は、あえて日本語詞で勝負した。
ダンスメンバーたちも静かにバックコーラスで加わり、ステージ全体を優しく盛り上げてくれる。
やがて割れんばかりの拍手喝采の中で本編が幕を閉じたが、鳴り止まない拍手に応えてアンコールも用意されていた。
曲は『SING/シング』のナンバーで楽しく!
観客もみんな笑顔で手拍子を返してくれる。
こうして、すべてのプログラムが無事に終了した。
ふうと大きな息をついて袖へと向かうと、待ち構えていた達也とガシッと抱き合った。
「達也、すごかったよ。めちゃくちゃ良かった!」
「いえいえ、颯太さんこそ凄かったです!最高でした!」
周りにいた事務所のスタッフたちからも、拍手喝采の嵐が巻き起こる。
そこへロニー先生も駆けつけてきて、3人でギュッと抱き合った。
「最高だったよ。感動した!」
俺の陽一先生もずっとそばで見守ってくれていたから、思わずハグしてもらった。
「颯太、素晴らしかったよ。終わってしまうのが勿体ないくらいだね~」
そう言われて、俺はえへへとちょっと照れ笑いを浮かべた。
それから楽屋へ向かおうとしたその時、
夏さんと桐生社長が通路に立ちはだかり、両手を広げて通せんぼをした。
「え? なに?」
「ダメ! 事務所を辞めるなんて絶対に勿体ないからね!
今日のステージは最高のパフォーマンスだった。本当に凄かった。だから、絶対に辞めちゃダメ」
夏さんが力強く言い放つ。
他の事務所スタッフたちも、みんなで拍手を続けながら口々に声を合わせてくれた。
「辞めちゃ~だめ~!」なんて言われてしまい……。
ちょっと困ってどうしようと立ち止まっていた。
俺が院長先生にチラッと視線を向けると、ただニヤニヤしながら何も言わない。
……って、これじゃあ、俺自分の口でちゃんと答えろってことだよね。
すると、達也がまっすぐな目で言った。
「颯太先輩、お願いします。また一緒にステージをやりたいです。
俺、すごく刺激を受けたし、もっともっとやりたいんです!」
あぁ、もうどうしよう?
嬉しさと照れくささで、両手で頭を抱えてしまった。
___しょうがない。
認めるのは癪だけど、俺自身も最高の達成感を感じていた。
ロニー先生の厳しい指導のおかげで、歌唱もダンスも、この数ヶ月で確実にレベルアップしていた。
その手応えは絶対にあったから、俺は思い切って顔を上げた。
「……はい、分かりました。事務所は続けます。でも、1回ごとのエージェント契約にしてください」
その瞬間、「わーっ!」と歓声と笑顔、そして再び大きな拍手が返ってきた。
恥ずかしくて、もう顔から火が出るかと思った。
この4か月間、文字通り死にもの狂いで練習してきた。
その努力が、少しはちゃんと形になったのかな。
俺の院長先生が両手を差し出してくれたので、思わず飛び込んで、また強く抱きしめてもらった。
ふと見ると、達也のやつも自分の旦那さんにぴったりと抱きついたままだった。
しっかり視界の端に入ってるぞ。
あいつも本当に甘えん坊なんだから。
その後はみんなでイベントホールへと移動し、盛大な打ち上げ会が開かれた。
例によって達也の旦那さんが、気前よく高級シャンパンをいっぱい差し入れしてくれた。
まずは桐生社長がグラスを持って立ち上がり、乾杯の音頭を取る。
「皆さん、本当にお疲れさまでした! 今日の舞台は、二人はもちろん、ダンスメンバーもナレーターも、マッピングのスタッフも皆素晴らしかった。私は最高に幸せで本望です。きっとファンの皆様も、想像以上の感動を持ち帰ってくれたはずです。それでは、全員の成功を祝して――乾杯!」
俺もみんなと一緒にグラスを掲げ、最後に先生と「チンッ」と軽やかにグラスを鳴らした。
あぁ、このシュワシュワの炭酸が体に染みわたるように美味しいねえ――。
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