69 / 103

第69話 碧人サイド<父の面接>

  父が土曜の午後、屋敷にやって来た。 外で待っていると、パリッとスーツを着て、俺の顔を見ると照れ笑いをしていた。 玄関から中に入ってもらった。 リビングには院長と加護部長、小林さんと陽菜が待っていた。 家政婦さん達も一緒に、皆さんに紹介して、挨拶を交わした。 「初めまして、碧人の父です。いつも碧人が大変お世話になりまして、ありがとうございます」 深くお辞儀をしていた。 それに院長が答えてくれた。 「わざわざお越しいただいてすみません。こちらこそ、碧人君には何かと良くしてもらっています」 「どうぞお掛けください」 「はい、ありがとうございます」 「父さん、こっちが陽菜だよ」 「ああ、見えてるよ。陽菜ちゃんもこっちに来れて良かったな」 父が陽菜に温かい言葉を掛けてくれた。 うんと、陽菜が言葉も出せずにコクリと頷いていた。 緊張しまくりだな。 「この度は親子でお世話になることになりまして、本当によろしいのでしょうか?」 「もちろんですよ。もう警備のベテランですからね。こちらもありがたいですよ」と院長。 「履歴書と昨年の源泉徴収票と資格証のコピーをお持ちしました。どうぞお改めください」 父が院長に差し出した。 「はい、ありがとうございます。こちらにいる立花家の執事の小林さんが、財団では総務部長になります。 お給料は財団の山川弁護士が決定しますので、詳細はまた郵便でお送りしますが、それでもよろしいでしょうか?」 「はい、もちろんです。ありがとうございます」 資格証をパラパラと見ていた小林さんが感嘆した。 「院長、この資格証は凄いですよ。こんなにいっぱいお取りになったんですか?」 「あ、はい。長年やってますと、必要になりますから皆いろんな資格を取るんですよ」と父。 「へえ~それは大変だ」と感心していた。 「院長、これなら管理課を独立させて、警備や防災管理、ドライバーと営繕まで。いっそ全部まとめて面倒を見てもらいましょうか?」と小林さん。 「はい、そうしましょう。小林さんも随分助かるんじゃないですか?」 院長が微笑んでいた。 俺だって資格の話なんて初めて聞いた。 父がそっと笑っていた。余裕だな。 そこへ由紀さんが、ケーキを薦めてくれた。 「まあ、お茶でもどうぞ。このケーキはうちの里奈ちゃんが作ったんですよ」 「あ、そうなんですか、里奈ちゃんは?」ときょろきょろして見回していた。 「多分、恥ずかしがって部屋にいるんじゃないの。あとで俺の個室も見る?」 「ああ、ちょっと待ってくれ。里奈ちゃんの美味しそうなケーキも頂くよ。 こういう機会は滅多にないからなあ」 皆がクスクス小さく笑っていた。 父は本当に美味しそうにそれを食べた。 「おお、うまいねえ~。こんなケーキが食べられるだけで幸せだ~」と大満足だった。 「じゃあ、碧人君、あとで個室やガーデンと社員寮も、案内して差しあげたらいいじゃない?」 院長がやさしく言ってくれた。 小林さんが社員寮のカギを出してくれた。 「こちらが藤沢さんのカギです。碧人君と陽菜ちゃんの部屋の近くですよ」 俺も小林さんから部屋のカギを貰っていた。 昨日、結婚する話を皆にしたら、拍手をして喜んでくれた。 陽菜は照れまくって顔を両手で隠した。 もう、可愛いんだから。 先日父から聞いた、陽菜の父が怒鳴り込みに来た件は、後日ミツワに行って院長と加護部長に話した。 「怖いですねえ~」と加護部長も驚いていた。 俺は陽菜にも聞かせたくなかった。 「ああ、今その話を聞いたら、トラウマが蘇っちゃうからね。 絶対内緒にした方がいいよ」と院長。 「はい、絶対言えません」俺は断言した。 その後は父に俺や陽菜の部屋を見せた。 「ああ~きれいだねえ。新築だからすごいよね?ピカピカだ」 父が感心していた。 それから陽菜も一緒にショップやガーデンに温室、深井戸、蔵などに、ガーデンスタッフの控え室やシャワールーム、トイレまで、一通り全部案内した。 「ガーデンの中が素晴らしいねえ。こんなにきれいな花に囲まれて仕事が出来るなんて、まるで天国だよ。ありがとう碧人」 御礼を言われて思わず涙ぐんでしまった。 そして完成したばかりの社員寮に案内した。 家政婦さん達はもう引っ越しを済ませていた。 1階のラウンジやダイニング、大浴場などを見せた。 「まるで高級ホテルじゃないか?凄すぎるよ」 父がきょろきょろと部屋中を見渡して感動していた。 そして父の部屋を見ると、 「ええ、いいのか?こんなにきれいな部屋で、ベッドもまるで高級ホテルだよ」 ベッドに座って確かめていた。 そしてクローゼットや引き出しを開けて覗いていた。 「造り付けの家具がしっかりあるからさ、要らない家具は全部処分していいと思うよ。 荷物を少なくしないと駄目なんだよ。財団の規則なんだ。 俺はほとんど要らないから整理しに行くよ」 「ああ、そうだな。ただ来る時は夜にしろよ」と父。 「あ、ああ~わかったよ。そうする」 陽菜に悟られないようにした。 そして週末、実家に帰って整理してきた。 二人して捨てるものばかりで、一軒まるごと不要だった。 思い切って不用品は業者にトラックで取りに来てもらった。 「父さん。会社はいつまで続けるの?早めに辞めてゆっくりすればいいじゃない? 財団の仕事は、いつでも始めて良いって言ってくれてるよ。 それに今度は管理課の課長になるんだってよ」 「ああ、そうらしいな。ピンとこんが、辞表は出したよ。 あとは有給休暇が3週間はあるから、引っ越しは10日くらい先かな。 家を貸すのに不動産屋にも頼まないといけないしさ。 庭や物置も片付けないといかん。 忙しいなあ。まあ、すべて終わったら、寮でしばらくは遊ぶさ」 「うん、そうしてよ。ずっと働きっぱなしだもんね」 「ああ、この歳になって、こんな極楽があるなんてなあ。 職場の皆には言えないよ。気の毒でさ」 「そうなの?」 「そうさ」 まあ、喜んでくれたなら良かったよ。 俺も父がこんなに喜んでくれるとは思わなかった。 幸せだった。

ともだちにシェアしよう!