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第69話 碧人サイド<父の面接>
父が土曜の午後、屋敷にやって来た。
外で待っていると、パリッとスーツを着て、俺の顔を見ると照れ笑いをしていた。
玄関から中に入ってもらった。
リビングには院長と加護部長、小林さんと陽菜が待っていた。
家政婦さん達も一緒に、皆さんに紹介して、挨拶を交わした。
「初めまして、碧人の父です。いつも碧人が大変お世話になりまして、ありがとうございます」
深くお辞儀をしていた。
それに院長が答えてくれた。
「わざわざお越しいただいてすみません。こちらこそ、碧人君には何かと良くしてもらっています」
「どうぞお掛けください」
「はい、ありがとうございます」
「父さん、こっちが陽菜だよ」
「ああ、見えてるよ。陽菜ちゃんもこっちに来れて良かったな」
父が陽菜に温かい言葉を掛けてくれた。
うんと、陽菜が言葉も出せずにコクリと頷いていた。
緊張しまくりだな。
「この度は親子でお世話になることになりまして、本当によろしいのでしょうか?」
「もちろんですよ。もう警備のベテランですからね。こちらもありがたいですよ」と院長。
「履歴書と昨年の源泉徴収票と資格証のコピーをお持ちしました。どうぞお改めください」
父が院長に差し出した。
「はい、ありがとうございます。こちらにいる立花家の執事の小林さんが、財団では総務部長になります。
お給料は財団の山川弁護士が決定しますので、詳細はまた郵便でお送りしますが、それでもよろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
資格証をパラパラと見ていた小林さんが感嘆した。
「院長、この資格証は凄いですよ。こんなにいっぱいお取りになったんですか?」
「あ、はい。長年やってますと、必要になりますから皆いろんな資格を取るんですよ」と父。
「へえ~それは大変だ」と感心していた。
「院長、これなら管理課を独立させて、警備や防災管理、ドライバーと営繕まで。いっそ全部まとめて面倒を見てもらいましょうか?」と小林さん。
「はい、そうしましょう。小林さんも随分助かるんじゃないですか?」
院長が微笑んでいた。
俺だって資格の話なんて初めて聞いた。
父がそっと笑っていた。余裕だな。
そこへ由紀さんが、ケーキを薦めてくれた。
「まあ、お茶でもどうぞ。このケーキはうちの里奈ちゃんが作ったんですよ」
「あ、そうなんですか、里奈ちゃんは?」ときょろきょろして見回していた。
「多分、恥ずかしがって部屋にいるんじゃないの。あとで俺の個室も見る?」
「ああ、ちょっと待ってくれ。里奈ちゃんの美味しそうなケーキも頂くよ。
こういう機会は滅多にないからなあ」
皆がクスクス小さく笑っていた。
父は本当に美味しそうにそれを食べた。
「おお、うまいねえ~。こんなケーキが食べられるだけで幸せだ~」と大満足だった。
「じゃあ、碧人君、あとで個室やガーデンと社員寮も、案内して差しあげたらいいじゃない?」
院長がやさしく言ってくれた。
小林さんが社員寮のカギを出してくれた。
「こちらが藤沢さんのカギです。碧人君と陽菜ちゃんの部屋の近くですよ」
俺も小林さんから部屋のカギを貰っていた。
昨日、結婚する話を皆にしたら、拍手をして喜んでくれた。
陽菜は照れまくって顔を両手で隠した。
もう、可愛いんだから。
先日父から聞いた、陽菜の父が怒鳴り込みに来た件は、後日ミツワに行って院長と加護部長に話した。
「怖いですねえ~」と加護部長も驚いていた。
俺は陽菜にも聞かせたくなかった。
「ああ、今その話を聞いたら、トラウマが蘇っちゃうからね。
絶対内緒にした方がいいよ」と院長。
「はい、絶対言えません」俺は断言した。
その後は父に俺や陽菜の部屋を見せた。
「ああ~きれいだねえ。新築だからすごいよね?ピカピカだ」
父が感心していた。
それから陽菜も一緒にショップやガーデンに温室、深井戸、蔵などに、ガーデンスタッフの控え室やシャワールーム、トイレまで、一通り全部案内した。
「ガーデンの中が素晴らしいねえ。こんなにきれいな花に囲まれて仕事が出来るなんて、まるで天国だよ。ありがとう碧人」
御礼を言われて思わず涙ぐんでしまった。
そして完成したばかりの社員寮に案内した。
家政婦さん達はもう引っ越しを済ませていた。
1階のラウンジやダイニング、大浴場などを見せた。
「まるで高級ホテルじゃないか?凄すぎるよ」
父がきょろきょろと部屋中を見渡して感動していた。
そして父の部屋を見ると、
「ええ、いいのか?こんなにきれいな部屋で、ベッドもまるで高級ホテルだよ」
ベッドに座って確かめていた。
そしてクローゼットや引き出しを開けて覗いていた。
「造り付けの家具がしっかりあるからさ、要らない家具は全部処分していいと思うよ。
荷物を少なくしないと駄目なんだよ。財団の規則なんだ。
俺はほとんど要らないから整理しに行くよ」
「ああ、そうだな。ただ来る時は夜にしろよ」と父。
「あ、ああ~わかったよ。そうする」
陽菜に悟られないようにした。
そして週末、実家に帰って整理してきた。
二人して捨てるものばかりで、一軒まるごと不要だった。
思い切って不用品は業者にトラックで取りに来てもらった。
「父さん。会社はいつまで続けるの?早めに辞めてゆっくりすればいいじゃない?
財団の仕事は、いつでも始めて良いって言ってくれてるよ。
それに今度は管理課の課長になるんだってよ」
「ああ、そうらしいな。ピンとこんが、辞表は出したよ。
あとは有給休暇が3週間はあるから、引っ越しは10日くらい先かな。
家を貸すのに不動産屋にも頼まないといけないしさ。
庭や物置も片付けないといかん。
忙しいなあ。まあ、すべて終わったら、寮でしばらくは遊ぶさ」
「うん、そうしてよ。ずっと働きっぱなしだもんね」
「ああ、この歳になって、こんな極楽があるなんてなあ。
職場の皆には言えないよ。気の毒でさ」
「そうなの?」
「そうさ」
まあ、喜んでくれたなら良かったよ。
俺も父がこんなに喜んでくれるとは思わなかった。
幸せだった。
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