81 / 103
第81話 陽一サイド<取れる責任>
応募者がまとまったところで、皆で計画を立てた。
そして今回の応募者達が、どう財団の足固めをしてくれるかという、説得できる財団の組織作りを支配人が作ってくれた。
なにより今回の応募者達が、一度に18名もミツワを抜けられるわけではない。
緊急度に応じて、段階的に移籍してもらえるように最大限の配慮の元に計画表を作った。
社長には30分時間を取ってもらった。
そして人事部長も呼んでいただけるようにお願いした。
「さあ、行きましょうか?」
白石支配人の声がかかった。
一緒に行くのは、支配人、俺、小林部長、加護部長、山川弁護士の5人だ。
緊張の面持ちで社長室のドアをノックした。
俺達が入ると、
「なんだ?この前の募集した件か?」と社長。
黙って支配人が我々が作った財団の組織図と、応募者達の所属と名前。
財団で作った段階的移籍の依頼表。
社長はしばらくじっと読んでいた。
目のまえの人事部長が憮然として、俺達を睨んでいた。
そして一通り読んで、社長は眼鏡をはずして、そばのハンカチで眼鏡を拭いていた。
「じゃあ、説明してもらおうか?院長、このトリアージの2名からだ」
社長が厳かに言った。
戦闘開始だ。
緊急度1・即日ドクターストップ。
本日中に荷物を持って帰宅させてください。今日付で病気療養。
引継ぎはメールのみ。1か月後は財団へ移籍。
経営戦略室 日比野海斗マネージャー
病名.鬱病
緊急度2・1か月程度なら引継ぎの為に出社できる。
ただし、1か月後は財団へ移籍。
情報システム部 長野祐樹
病名。鬱病
「ご説明します。現在、日比野さんは寝たきりになるほどではないものの、今のままでは、命を投げ出す危険があります。猶予はありません。即刻帰宅させてください。
長野さんは自分に仕事が集中してしまい、過度のストレスと仕事の重責で、もう鬱状態になっています。今は薄皮で繋いだ状態です。
ただ彼曰く、下のスタッフとの力量に乖離があって、空白状態になっていることを心配しています。
サポートもままならないほど、自分に仕事が集中していることで、抜けられない閉塞感が余計に彼を追い詰めている状態です。
至急、同レベルのスタッフを2名入れて、1名は引継ぎを、1名は下の人たちのレベルアップをサポートする必要があるかと思います。
ここに、二人を診察した、診断書を提出します」
社長に2枚の診断書を提出した。
彼はそれをじっと読んでいた。そしてふーっと息を吐いて考えていた。
やがて「人事部長、経営戦略室の日比野君を即刻、荷物を持って帰らせなさい。一か月の病気休養の後は、財団に移籍する。そしてコンプライアンス委員会に戦略室の室長以外のメンバーを個別にヒヤリングさせなさい。その結果は私だけに耳に入れるように。他言無用だ。いいね?」
「はい、かしこまりました」
「それから、情報システム部の長野祐樹君は、一か月後に財団に移籍させる。同レベルの実力を持った2名をすぐに採用して引き継ぎを開始してください。良いですね?」
「はい、かしこまりました」
「それから、全部で移籍希望が18名か。なるほど一度には無理だな。
人事部長、ここに財団が作った、移籍の計画表がある。順番に応じて、新しいスタッフを雇用して、順次移籍してやりない。応募した時点でモチベーションは下がっている。無理に引き留めても意味はない。いいね?」
「はい、かしこまりました」
人事部長は諦めたように、恭しく深く頭を下げていた。
「ではこちらがコピーです」と支配人がファイルを渡していた。診断書のコピーも一緒に入っていた。
それを受け取ると、冷ややかに俺達を睨んでいた。
そして皆で次の社長の言葉を待っていた。
「どうだ?その計画に沿ってミツワの社員を入れれば、盤石な基盤が出来るんじゃないか?」と社長。
「はい、その通りです。弱者達はほとんどキャリアがないし、磨ける環境もありませんでした。それをミツワの社員たちが指導してケアしてくれれば、時間はかかっても、着実に共存していけると信じています。
それとですね。前回お話ししましたが、いよいよ<立花家>というブランドで、商標登録をしようと思っています。
これからは立花家や、ガーデンに関する本や、家政婦さん達が作った料理をレトルト食品として売り出す予定です」
「ほう~、こりゃまた、ひょうたんから駒だな。どこに頼むつもりなんだ?」
「はい、食品は菜の花フーズが契約したいと言っています。
それと本は、有名な富裕層向けの婦人雑誌にお願いして、すでに立花家の雑誌を作っています。
オープン前に発売する予定です」
「へえ、やることが早いな。それはぜひ見たいもんだね。良し、じゃあ、そういう事で終わっても良いかな?」
「はい、ありがとうございました」
そして部屋を出て廊下に出た。
途端に「早く行きましょうよ」と加護部長が急かした。
それで、人事部長に首を絞められないように、ささっと早足で逃げるように会議室に戻った。
会議室に戻ると、みんなで「はあ~疲れた……」皆で溜息をついた。
「まあ、首は絞められなく良かったじゃないですか?」と加護さん。
「うん、そうだね。支配人、日比野さんにメールを送った方がよくないですか?」
「あ、そうだ。送りますよ」
スマホを出してささっとメールしていた。
「それと応募者にも連絡メールを送った方がいいですね?
社長が承認してくれましたからね」と支配人。
「うん、でもまだ分からないよ。承認は得たけど、成り行きはまだはっきりしないからね。
あまり期待しないで時間をかけて、見守って欲しいと言った方がいいでしょうね」と俺。
ともだちにシェアしよう!

