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第82話 白川支配人サイド<日比野マネージャーの顛末>

 社長が意外なほどあっさりと、財団の希望を聞いてくれてホッとした。 そして人事もスムーズに、一斉に応募者達の移籍を発表してくれた。 ただし期間は明確ではないが、2か月以内、6か月以内に、または1年以内を目指して引継ぎが終了次第、という表現を使っていた。 こういう曖昧さは珍しい。 さすがに社長の指示は強い。 うらやましい……。 そして社内の反響はすさまじかった。 チャットで一番多かったのは、「私も応募すればよかった!」がほとんどだ。 人が成功すると、惜しかった自分をかわいそうに思うのだろう。 皆狭き門のミツワの社員なのだから、十分エリートだろうと思うが、それでも長くやると飽きる。 でも給料が下がるのはプライドが許さないか。 しかし、社内で募集するのはこれが最後だ。 これ以上やったら、闇討ちに遭ってしまう。 日比野から感謝のメールが来た。 「救われました。本当にありがとう。今後ともよろしく頼みます」とのことだった。 日比野の役職については、院長や弁護士、加護さん達と相談をした。 「今の財団は、経営戦略なんて部署はないですから、作ればいいのではないでしょうか? 広報から来てくれる、山辺さんと八坂さんの二人もここに入れて、広報活動も一緒に担えばいいと思いますよ。 ホールの運営をしたいと言ってくれた、営業部の早瀬裕子さんと鴨宮奈津子さんもここに参加ですね。 まあ一年後の話ですから、その時に所属タレントがいたら、この二人に面倒をみてもらいましょうよ」と、どこまでも人にやさしい院長。 すごく良い意見を言ってくれた。 弱者を救済する社会福祉事業のミツワ未来財団にも、経営戦略室ってあってもいいのか。 結びつかなかった。 「それはいいですね、芸能の仕事がしたいと言っていた総務の二人、岡野美奈さん、堂島幸子さんもここに入れましょうよ。 将来は芸能部を独立させるくらい、実績が出来るといいですね」と加護部長。 「そしたら、経営戦略室の室長にしますか?」と山川弁護士。 「はい、いいですね。彼の給料は今いくらなんでしょうか?」 ちょっとドキドキだったんだけど聞いた。 「多分、1200万くらいじゃないでしょうか? 室長だったら1100万くらいでどうしょうか?」と弁護士。 「はい、いいと思います。本人はペーペーでもいいと言ってましたからね」 僕がそう言うと皆がくすっと笑った。 「人事の野島さんはどうしましょうか?」と院長。 「あ、そしたら彼をください。総務の仕事は彼にやって欲しいです。 それと経理部門ですけど、オープン前に高見夫婦が欲しいんですよね。今経理が誰もいないんですよ。オープンしたら大きなお金が動くので、経理のキャリアがほしいんですよ」と小林部長。 「それと警備の望月さんと管理の水野さんと佐伯さんは、藤沢課長の下に入ってもらいます。あとは情報システムの長野さんは、経営戦略室に入ってもらっていいですよね?」と小林部長。 「はい、いいです」と賛成で決まった。 それですべてのスタッフの配属先が決まった。 会長室での会議を終えると、財団の事務所に向かった。 そこには広報の山下さん、ショップの小松さん、岡本さん、男子の石井君と田代君が揃ってお茶をしていた。 俺達の姿を見ると、「お帰りなさい」と声が揃った。 「どうなったんですか?ミツワのスタッフたちは?」石井君から声がかかった。 「もうみんな聞きたくてしょうがないんですよ。早く教えてくださいよ」と山下さん。 皆が輪になって座った。 「プリントしてきたよ、見て」 先ほどの内容をプリントして持ってきた。 わっとプリントを囲んで皆で見ていた。 「なんか営業から随分広報に回ってきてますが、結局はみんな財団の仕事をしたいんですよね?」と田代君。 彼は目をキラキラ輝かせていた。 それは皆おなじだよね。 「なんか、財団って営業魂がじっとしてくれないんですよ。だって真っ白なんだもん。これから色を塗れるってワクワクするよね?」と石井君。 自分が関われていることに満足感があるのだろう。 なんとか、滑り込みセーフって感じなのかな? それは全員同じだと思うけど……。 ただ、財団を始めてくれた院長と颯太名誉会長には本当に感謝しかない。 僕たち、ミツワの社員に大きな夢と希望を与えてくれた。 そのことに間違いはないんだ。 妻が言っていた。 「あなた、財団に入ってから楽しそうね」 「うん、確かに、楽しくてしょうがないよ」 ふんふんと鼻歌でも歌いたい気分なんだ。

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