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第89話 颯太サイド<秘められた才能>
夕食後に先生と今度の旅行先の動画を色々検索して見ていた。
ソファにもたれて、先生は床にクッションを置いて座ってもらう。
その前に俺を抱え込んで抱っこしてもらい、二人でくっついて見ている。
このスタイルが大好き。
大きな画面を甘えながら見られるから楽しい。
動画では旅をする中年夫婦のお薦めコースなどをやっていた。
場所は南フランスだ。
その中でも今はニースをやっていた。
「ナポリからニース行の直通の飛行機があるんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ。便利だよね」
「それで。ニースから車で30分行くと、モナコに着くよ。
モナコのホテルは最高級のところで、窓からヨットハーバーが見えるって上川秘書が言ってたよ」と先生。
「楽しみだねえ~」
俺は先生と手をつなぎながらべったりして、ヨットハーバーを散歩するところを想像した。
「ねえ、ニースで買い付けして来てって言われなかったよね?」
そこで、先生がおもむろに表情を変えて、俺と向き直した。
「えっと、それなんだけどさ、皆が颯太の音楽だけじゃなくて、商才にも期待されてるみたいだよ」と先生。
「うん、どういうこと?」
「やっぱり立花家の血筋だからさ。歌手であってもお父さんの商才を引き継いでるって見られてるんだよね。
才能があるから、美しいものを見る目は絶対養われてるって皆が言うんだよね。
颯太も自分でそう思わない?」
「ええ……わかんないよ。考えたことないもん」
「それでさ、ニースの卸売店に予約して手配をしておくから、行ってきてほしいんだって。
商品はほとんど目星をつけているらしいんだけどね。
実際に見て、良いかどうかを教えてほしいんだって。だから動画で、ニースと日本の生中継だね。
それで良かったら、支払ってきて欲しいって言ってたよ。颯太は凄い期待されてるね?」
先生がにこっと笑って俺を見つめた。
……え、そんな話は今初めて聞いた。
どうなってるの?
「それさ、楽しい事なの?」
「そりゃ楽しいさ。買い付けって一度やると病みつきになるらしいよ。
颯太の才能が花開くんじゃない?」
「は?なんだか、分かんない」
「普通の旅はさ、いくらでも動画とか旅行案内に出てるから、家にいても見られるでしょう?
でも問屋なんて普通の人は絶対見られないんだよ。それってすごいと思わない?」
また先生がイケメンの素敵な眼差しで俺を見つめた。
「わ、分かったよ。どうせSPが連れて行ってくれるもんね?行けばいいだけでしょう?」
「うん、そうだよ。面倒なことは俺がするよ。アテンドや通訳も要るから、全然問題ないよ」
「うん、わかった、それなら行くよ」
なんかよくわからないけど、ニースの問屋さんにも行くことになった。
だから、家にいる時は旅行案内の動画をじっくり見ることにした。
「あ、そうだ。バルセロナでも問屋さんを予約するって言ってたよ。良いよね?行くだけだからさ」
先生は魅力的な笑顔を見せつつ、俺の頬にキスをした。
チュってリップ音が鳴った。
「は、また?」
気は進まないけど、先生が行くならしょうがない。
「うん。でもね、安いお土産って中国産が多いらしいよ。だから颯太が見破って欲しい。颯太ならできるよ」と先生。
なんか座り心地が悪くなってきた。
なんでバルセロナの土産品を中国が作るわけ?
そんなの注文するなよ。
それは先生に見破ってほしい。
ああ、でももう面倒だから考えないことにした。
とりあえず、先生の言うとおりにくっついて行くよ。
あとは知らない。
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