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第92話 陽一サイド<ナポリにて>

 ローマで2泊してから、高速鉄道でナポリへ向かう。 所要時間は1時間20分くらいか? 近い!東京の郊外って感じだな。 ここで社命がある。 「ナポリピザを食べて来ること」 前回来た時に食べたけど、確かにおいしかった。 でも本当は違うものを食べたい。 財団のカフェでは薪窯で焼くナポリピザを名物にする。 そのために世界大会でも入賞した、ナポリピザ職人の有名店で修業した弟子を引き抜いて、ピザ窯で焼くのを売りにする。 支配人がもう探してきた。 これ結構ドキドキする。 ずっと続けることが出来るだろうか?という不安だ。 職人が左右することだから。 1年やって飽きたとか言わないか? 引き抜きといっても友好的な引き抜きだからいいのかな。 実力があっても店を持つというのは、また別のハードルが高いしね。 続けてくれることを祈る。 ナポリピザは皮の味が素朴で、ふっくらもっちりしてうまみがある。 具材にそんなに凝らなくても皮が美味しいから、具材はシンプルでもいいって感じだ。 飽きない味でしつこくない。 「ピーザ、ピーザ……」歌うように颯太が待ちかねている。 開店時間に間に合うように行ったから、スムーズに案内される。 高温の釜で焼くから、あっという間にテーブルに持って来てくれる。 SP達や、ドライバー、アテンドも上機嫌だった。 イタリア人はみんな好きだねえ。 和食を知らないからな。 しかし、熱々で美味しかった。 やはり薪窯の焼き立ては価値がある。 食べ終わる頃、颯太に聞いた。 「颯太、夕食はポジターノだけど、何が食べたい?フルコースにする?それとも外の店でペストリーを買って、あとはお茶漬けにする?」 颯太が冷たい目で見た。 クク……つい、笑った。 俺の意図はもうバレていた。 「先生、もう和食を食べたいの?」 「うん」 悪いか?俺は年寄りなんだよ。 朝はパンで、昼はピザだ。夜は和食に決まってるだろう? しかし、颯太が無言で首を横に振った。 結局、ダイニングでフルコースになってしまった。ああ~。 このホテルは、外壁が濃いピンク色で5つ星ホテルだ。 洗練されたイタリアっぽいインテリアデザインが、すごく気に入っている、 部屋が良いから、我慢するか。 フルコースはなるべく魚介類のシンプルなものにした。 そしてこっそり ポケットから取り出した携帯用の粉末醤油を、回りに気付かれないように魚介のグリルにパラパラと振りかけた。 途端にソテーされた魚貝に醤油の香りがした。 ……うん、これこれ。やっぱりこの香ばしい醤油の風味が加わると、一気に落ち着く。 隣で颯太が、 「また隠れてそんなことしてる……」と呆れていた。 「でも俺にもちょっとかけてよ」だって。 「は?きこえな~い」と言いながら振りかけてやった。 クスクス二人で笑っていて、ボーイに気づかれてしまった。 でも、無視無視。 夜はまたソファでべったりとくっついている。 バルコニーから見える海は漆黒だけど、わずかに柔らかい海の風が頬を撫でる。 右の方向を見ると、ポジターノの崖に沿って建っている建物の灯りが、きらきらとまぶしいくらいに美しい。 「きれいだよねえ」と颯太。 ゆったりとした長椅子で、颯太を前に抱えて足を延ばしていた。 1杯のワインを二人で交互に飲む。 時折キスをしながら飲むのは美味しいけど、口の中の熱で酔いが早くなる。 「先生、あまり酔わないでね」 ふ、またバレてたか……。 「もう寝よう」 腰をあげて促した。 手を繋いでベッドへ。 海に面した窓は開けたまま……あ、駄目だ。 颯太の声が漏れる。 夜は長い。

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