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第93話 加護サイド<ドキドキ動画>
院長たちが海外へ出かけてから約1週間。
画像が送られるたびにため息ものなんだけど、確実にこっちの仕事のスピードが落ちた。
みんな集中力が切れ気味で、時折ぼーっとしている。
私だって一番ダメージを受けているんだけど、それは絶対内緒。
今日は院長がニースで買い付けをする日だから、今夜18時からが仕事本番になる。
ニースなら朝10時だ。
弁護士の山川先生も「一緒に拝見してチェックします」とのこと。
早めに夕食を食べて、パソコンの大きな画面を皆で眺めながら、その時を待った。
「院長、ちゃんと出来るかなあ?」と小松さん。
微妙……皆が抱えている不安だった。
今まで一回も買い付けなんて、やったことがないんだから当たり前だ。
「いや、颯太さんが嫌がってないか?の方が心配だよ」と支配人。
支配人は颯太さんが院長にべったりなのをよく分かっている。
だから商品なんて、よそ見をさせてくれるかな?って心配だよね。
彼の表情は冴えない。
買い付けの為の広報との同行を、院長に断られたそうだから。
そりゃそうでしょう?
院長から画像を貰って分かったけど、
飛行機が出発すると、颯太さんは早々に座席を平らにした。
そしてさっさと白いパジャマに着替えちゃって、寝っ転がっているんだもん。
にこっと笑う颯太さんの写真を送られた時に、「ひっ」と思わず返信してしまった。
見たことないよ、ファーストクラスなんて。
座席が平らになるの?
普通、飛行機って座って行くんじゃないの?
ホテルは5つ星だ。
レストランが3つ星と来たら、楽しすぎて仕事の入る余地はない。
今まで院長からそういう話を聞いていなかったから知らなかった。
とにかく颯太さんは、あれだけ院長にべったりの甘えんぼだ。
だから今日はいきなり仕事が入るからって、彼はどうなんだろう?
でも院長は嘘を言ったりはしない。
絶対、時間通りに問屋に行ったはずだ。
「さ、もう時間ですよ。皆さんリストの確認はいいですか?録画も開始しますよ」
支配人は、さあ、来い!とばかりに緊張していた。
そして18時の2分ほど前から動画が始まった。
院長も颯太さんも、きちんとスーツを着ていた。
「わあ、買い付けのビジネスマンをやってくれたんですねえ」
岡本さんが感心していた。
「お早うございます__かな?こっちは朝の10時です。問屋に来ました。
予約してくれてたから、担当者が丁寧にあいさつをしてくれました」
院長と颯太さんがにこっと笑顔で、画面から手を振ってくれた。
そして向こうのスタッフも画面から挨拶をしてくれた。
案内されて通路を歩いて行き、やがて広い倉庫のような部屋に入った。
そこには商品の段ボールや箱がずらっと積んであって、それぞれ1個だけ商品が表に出ていた。
「ここは財団の注文分を全部集めておいてくれたそうですが、
全部確認しますか?」と院長。
「はい、すみませんが、こちらのリストと確認するので、一種類ずつ動画を回してもらえますか?」と支配人。
ずーっとゆっくりと商品を写して横移動をしていた。
向こうのスタッフは息を詰めて見守っているようだ。
無言で緊張していて、固くなっているのが伝わって来た。
多分、こういう形の買い付けは、始めなんだろう。
全体の量は、軽トラックの2台分くらいか。
種類は多いが、それぞれの量自体は少ない。
場所がないもんね。
一通りカメラで映し終えると、
「これで全部だそうですが、もう大丈夫ですか?」と院長。
支配人は広報スタッフ達の顔を見た。
「はい」とみんな声を揃えて頷いていた。
「じゃあ、これで間違いないので、請求書を見せてもらえますか?」と支配人。
アテンドの人が通訳していた。
スタッフはファイルから請求書を出して画面に見せてくれた。
「ああ、はい、そうですね。こちらの試算通りです。
では支払いの方をお願いできますか?」と支配人。
通訳がOKを出すと、向こうのスタッフが初めてホッとしたように笑顔を見せてくれた。
今度は颯太さんはカメラを持ってくれた。
院長が案内されて事務所に入った。
ソファに座って法人のブラックカードを出す。
無事に決済が終わって握手を交わすと、先方がコーヒーを出してくれたようだ。
「ではちょっと休憩するので、動画はこれで終わってもいいですか?」と院長。
「はい、結構です、ありがとうございました。よろしくお伝えください」
支配人が終了を伝えると、皆で画面に手を振ってからカメラが切れた。
こっちもふう~と息をついて画面から離れた。
「ああ、終わりましたね。
事前の準備が良かったので、何も問題はありませんでしたね」と山川弁護士。
「うちの注文の他に、何か見せてもらわなくて良かったんですか?」と岡本さん。
すると支配人が、すこし自嘲気味に笑った
「うん、それはきりがないから止めよう。まだバルセロナもあるしね。
それと、実は今後は買い付け品に頼らずに、うちのオリジナル商品を作る方向に行こうと思うんだ」と支配人。
おっ、いきなりの爆弾宣言だった。凄い。
「ああ、それはいいですね。コストの面でも最高ですよ」と田代君。
「私もそれは大賛成です。いろんな意味で助かります」と岡本さん。
そうなんだ。それは素敵なことだ。
いつまでも買い付けに経費を使うのは現実的ではない。
結局、この日は全員20時前に退社できた。
院長たちも疲れただろうなあ。
ニースでわざわざスーツだもんね。
メールでお礼を伝えた。
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