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第97話 陽一サイド<達也君の気持ち>

 颯太はコートダジュールの海岸をもっと楽しみたいと言う。 コートダジュールとは、<イタリア国境のマントンから、ニース、カンヌ、サントロペあたりまで続く、地中海沿岸の特定のエリアを指す呼び名>なのだそうだ。 もちろん、そこにはニースから車で30分ほどのモナコも含まれる。 青い空、白い砂浜、青い海、そんな明るさがメチャメチャ気に入ったんだって。 何より、あれほど日本でのコンサートを極端に嫌っていた颯太が、急なホテルのオファーにも「3日間ならいいよ」と言ったのは奇跡だ。 実はオファーを受けたあと、理事の夏さんと桐生社長から1時間ほど経って電話があった。 「さっきのオファーの電話の後で考えたのですが、颯太さんがそっちを気に入ったのなら、そこを拠点にヨーロッパでプライベートな音楽活動をすることは出来ますよ。どうですか?」という話だった。 「ええ……急なことでわかんない」と颯太。 そこで電話を俺が代わった。 「もっと詳しく話してもらえますか?」 「はい、3日間のショーだけど、マーケットは大きいです。音楽関係の大物もいるし、あのホテルには富裕層が沢山いるから、事務所としては試金石としての価値がすごいです。 ちょうど達也君が旦那さんの出張でパリにいるから、モナコに呼んで二人でこの前のコンサートの再現をしたらいい。そしたらリハーサルがなくても出来る。 ダンサーも一緒に出たメンバーを2名連れて行くので、やってみませんか? 大手のプライベート専門のエージェンシーにも声を掛けて招待するから、どうでしょうか?」 そういう社長からの話だった。 そして、「達也君もその話に乗るなら、二人で組めば出来る。片方がヒートになってももう一人がカバーできる実力がある。または、欠席した分は、ホログラムを出してデュエットをしてもいい。 もし二人がその気になったら、ニース近辺のホテルを買収して音楽事務所の拠点にしてもいい」という話だった。 ……話が一挙に大きすぎないか? 聞かなかったことにしたい。 俺の仕事はどうなるよ? それが全く抜けてるんだもんな。 財団はどうするんだよ。 颯太は俺無しではどこも行かないんだよ。困った。 颯太にその話をした。 「颯太、どうする?なんか理事や社長はやる気満々だけどさ。こっちのプライベートなコンサートならやりたいの?理事たちはその辺を考えてくれてるよ。 だって日本でのコンサートは嫌だったでしょう? 達也君と組む話は賛成だよ。 お互いのヒートをカバーできるし、気が向いた話だけ受ければいいみたいだしね。 どちらにせよ、達也君のスケジュールと合わないと出来ない話だよ」 俺が話している間も、颯太も俯いて聞いていたけど、日本のような極端な拒絶はない。 「ああ、そうだね。それは考えなかったよ。その方が良いのかな。 達也はどうなんだろう?達也が良いなら俺も考えるよ」と颯太。 「じゃあ、ちょっと達也君に電話してみたら?」 「あ、そうだね、電話するよ」 3回ほどコールすると達也君が出た。 「あ、颯太先輩、事務所の話じゃないですか?俺も今しがた社長から話があって驚いたんですよ」 「そうなんだ。そっちにも話がいったんだね。 それで、モナコのホテルにいた時に、支配人から歌の仕事のオファーを受けたんだよね。 その営業許可の為に桐生社長に話したんだ。 そしたら話がいきなり大きくなったの。達也は社長からなんて言われたの?」と颯太。 「ホテルとコートダジュールを拠点にする話は、社長からちゃんと聞きました。 いや~もう、大歓迎です! 今は興奮しています。旦那さんもここにいるから、話をしたところです」 「そうなんだ。旦那さんは何て言ってるの?今パリにいるんでしょう?」 「はい、そうです。旦那さんは出張でパリに来てるんだけど、少し休暇を取って、コートダジュールで過ごそうかって言ってたんです。そこへちょうどモナコの話があって、タイムリーでびっくりしているところです」 「へえ、そうなんだ。じゃあ、ヨーロッパを拠点に音楽活動をするのはOKなの?」 「はい、もちろんです。しかもプライベートな富裕層向けのエージェンシーだと聞いたので、旦那さんに確認したら、絶対受けた方がアーティストの価値が上がるんですって。 やりたいことだけやればいいからだって。颯太先輩はどうですか?」 達也君は興奮していた。

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