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第98話 陽一サイド<邪魔者>
颯太が電話で達也君と話を続けている。
「うん、今聞いたばかりでまだ考え中。でも急な仕事を3日間も受けたくらいだから、俺自身は嫌じゃないみたい。
それにコートダジュールって最高だしさ、俺はすごく気に入ったんだよね。
もし達也が一緒にやってくれるなら、お互いにいつヒートになっても大丈夫だしさ。
その手もあったのかと思ったとこだよ。
あとは達也次第だから、気持ちを聞こうと思って電話したの。でもなんかやる気満々だよねえ?」 と颯太。
電話しながら、颯太がふふふと笑っていた。
「えへへへ、そうなんですよ。旦那さんも俺がヨーロッパを拠点に仕事をするなら、支社をコートダジュールに置いてもいいよって言ってるんです。ニースは空港があるから便利だと言ってます。
でも颯太さんの旦那さんは財団の仕事があるでしょう?それはどうなんですか?」と達也君。
「そ、そうだよねえ~、それなんだよなあ。迷惑をかけちゃうからさ……」
しょんぼりした颯太を見てると、何とも言えない気持ちになってきた。
俺が邪魔者になってるな。
「颯太、ちょっと電話代わって」
「あ、達也君、元気そうだね?こっちは今バルセロナの空港に着いたところなんだけどね。
事務所の急な話で、達也君はコートダジュールを拠点にして、プライベートエージェンシーの仕事を受けてもいい。颯太と組んでやるのはOKということでいいの?」
「はい、俺は全然かまいませんが、颯太先輩は嫌じゃないですか?」
スピーカーフォンにして颯太も聞いていた。
横から、「全然嫌じゃないよ」と颯太が大声で返事をしていた。
なんだよ、じゃあ、決まりじゃないかよ……。
「颯太の声が聞こえた?OKだって」
「はい、聞こえました。でも拠点の話は、エージェンシーからオファーがあったら、また考えます。
それまではホテルの3日間を一緒に楽しみましょう。
俺もその3日間は一緒に歌えるし、踊れます。
この前のコンサートと同じ内容でいいと言う事なんで、OKです」と元気な達也君。
「はい、分かりました。ではまた連絡します」
慎重だねえ。恐らく旦那さんの意見だな。
さすがに大手車会社の副社長だよ。
確実を狙ってるな。
俺も見習おう。
でもあの世界に詳しい旦那さんの言う事なら、多分確かだ。
間違うことはおよそないだろう。
アーティストの価値が上がるか……。
妻である彼の最大の応援者であろうとしているんだな。
世界を飛び回って、最も忙しいはずの彼が……。
財団はこれから本番で忙しいというのに――しかし待てよ。
エージェントからオファーが来るかどうかなんて、まるっきり未定だもんな。
しかも近辺にホテルを買収してスタジオを建てる?
さすがに浅田理事だと桁が違う。
そこまで言うなら、きっと周辺を調べ上げているに違いない。
やると言ったらきっとやるな。
結局、颯太だけの問題になっている。
いや違う――俺だけの問題じゃん。
が~ん。
とにかく、今は考えている場合じゃない。
明日は財団の買い付けで問屋に行かないといけないんだ。
翌朝、また颯太とスーツを着て問屋に行った。
ニースの問屋とさほど変わらなかった。
ちゃんと予約してあったので、商品もズラッと並べてあったし、財団スタッフもOKを出した。
そして難なく決済を済ませ、問屋を出た。
「お帰りをお待ちしてますよ~」と皆が手を振ってくれたのに、なんだか俺は裏切る一歩手前の悪人になっていた。
どうにも居心地が悪い。
「先生、俺は練習が気になるから、皆へのお土産を買ったらホテルに戻りたい」
「ああ、そうだね。そうしよう」
アテンドのお薦めで百貨店の地下に行った。
ここはお土産品なら何でも揃うらしい。
でも颯太はなんだか気もそぞろで集中できないようだ。
眉を寄せていた。お土産を買う時間が惜しいのだろう。
練習しないと不安なんだと分かった。
アテンドのお薦めの土産品を買うことにした。
財団のスタッフにはまとめてチョコレート。
生家の皆さんにも、同じ可愛い絵柄の缶に入った菓子にした。
小林さんと山川弁護士には、皮の小銭入れを買った。
家政婦さんの他に、ばらまき用のスペインの絵柄が付いたマグネットを大量に買った。
これだけあれば大丈夫だろう。
颯太はレジ付近でぼーっとしていた。
「颯太、お待たせ。ホテルに行こう」
「うん」
両手にいっぱいの荷物を抱えて、ホテルに向かった。
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