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第55話 「見て」
コンテストの会場となったのは、本社ビルの最上階にある、普段は来客対応に使っているというフロアだった。
ただ、中に入ってみて驚く。まるっきりハピロンの店内そのものの内装だったからだ。
一階ロビーにも置かれていた、ライトブラウンの合皮のソファー。ソファーと同系色にまとめられたテーブルセット。一人客専用のカウンターも店舗と変わらない。しかも、ちゃんとキッチンも備えつけられていて、店舗さながらに、調理も行われている。ほんのりと漂ってくるのは、ハンバーグソースの香りだ。
「腹減った」
近くにいた別の店舗のスタッフが呟く。俺も同感だ。朝ご飯は食べてきたけど、この香りを嗅ぐと条件反射で腹が空く。
「こちらのフロアは、接客動線、提供時間の確認など、実際の店舗に即した形で店舗運営を考える目的でも使われております。ですので、皆さんの勤務されている店舗とそれほど差異はないかと思います。卓番はお配りしたプリントにありますのでそちらで確認願います」
コンテスト運営スタッフの説明を聞きながら、俺はそろおっとフロア内を見回す。
その俺の視線に気付いたわけではないだろうが、スタッフの女性はフロアの中を掌で指し示してみせた。
「今回、より実践に近い形で審査するために、当社の社員、および、アンケートスタッフとして普段、ご協力いただいている皆様にお客様役をお願いしております」
俺が勤めている菊塚店は総客席数、八十五席だから、それに比べれば、ここはその半分程度の席数しかない。ただその座席の三分の二はすでに人で埋まっていた。実践に即して、という意図ゆえか、年齢もばらばらだし、スーツ姿の人もいれば、カジュアルファッションの人もいる。
店長にちらっと話は聞いていたけど、思った以上に本格的らしい。てっきりどこかのホールのステージ上で疑似接客みたいなのをさせられるのかと思っていたのに。
コンテストスタッフの説明はまだ続いている。特別なことをするわけではなく、十分間、このフロアで同店舗の参加者と協力して接客を行うこと、その様子をお客様役が審査する、ということ。
ランチタイムが少し過ぎたくらいの混み具合、しかも店舗の広さは菊塚店の半分。よほど問題はないと思う。だからそれほど気負う必要はないのだ。ないのだけど、審査されると思うとそわそわする。全然、練習もできてなかったし。
きゅっと小さくサロンエプロンの端を握る。その俺の肩が唐突につんつん、と突かれた。
首を巡らせ、驚く。
史人さんがこちらを見下ろしていた。こそっと指が伸ばされ、フロアの一角を示す。
「見て、店長がいる」
「え」
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