7 / 12
第7話 呪具ドラッグ
平和な日々は突然、危険に侵食される。呪詛に関わる者の日常だ。
この日、典薬寮に飛び込んできた情報に、一同が騒然とした。
広間に集まった一同の前で、桂伽がノートパソコンを持って立った。
大きなソファに腰掛ける宇緑の隣で、終夜が眉を顰めた。
「呪具ドラック……?」
桂伽が無言で頷く。パソコン画面を宇緑に向けた。全員が画面を覗き込む。
桂伽が画面に写真を表示した。
「これが、ドラックの外見」
ドラックは片手の掌に収まる程度の小さな瓶に入ったリキッドだ。
紫色の液体も容器もお洒落で、一見すると香水のアトマイザーのように見える。
「最初は一般のドラックだと思われていたみたい。ドラック使用者の変死が続いて、警視庁が公安部の特殊係に案件を移した」
公安部特殊係十三課は、怪異を取り締まる国直属の機関だ。
「実際は一般の違法薬物に呪術を施して呪殺する。つまり、呪具ドラッグ」
そういう呪具なら、専門家なら簡単に作れる。かえって犯人を絞りづらい。
「特殊係に案件が移ったのなら、問題ないのでは?」
終夜の問いに、桂伽が画面を変えた。呪禁師向けの地方新聞だ。
呪具ドラッグの関西への流入を懸念した記事が書かれていた。
「東京の検挙は成功したみたい。検疫を逃れたドラックが京都に流れている可能性がある」
ノートパソコンの画面を見て、皆が息を飲んだ。
「特殊係の京都支部、今は動けないね」
粧が宇緑を見詰める。
「大妖怪の大捕物で、出払っているよな」
遊馬が息を飲んだ。
「特殊係の京都支部って、妖怪狩りが得意な集団だからねぇ。どちらにしろ、ドラッグ摘発みたいな仕事には不向きだね」
宇緑がマウスをスクロールしながら画像の呪具ドラッグを観察している。
「俺たちの仕事かな」
宇緑が呟く。皆の纏う気が、張り詰めた。ビリビリと痛いくらいに空気が尖る。
(いつもの仕事とは、違う。皆の目が、本気だ)
緊張した空気に、螢緋は圧倒された。
「それじゃ、桂伽は引き続き情報収集、粧と遊馬は街中で呪具ドラッグ探し。終夜は特殊係に連絡とって」
宇緑の指示に頷くと、全員が同時に立ち上がり、部屋を出て行った。統率の取れた動きに、驚くばかりだ。
「宇緑、俺は?」
「螢緋は俺と一緒。今回の件、俺から離れないようにね」
「わかった」
螢緋は頷いた。宇緑の指示なら、素直に従う。けれど、どうしてか胸がざわつく。
「……やっと動き出したか。長かったな」
宇緑の口端が、薄らと上がった。その目は自身に満ちている。なのに、螢緋の胸にはわずかな不安がこびり付いていた。
ともだちにシェアしよう!

