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第12話 好きなら信じて

 その日の夜、螢緋は宇緑より先にベッドに入った。 (宇緑や皆は、何かを知っているんじゃないだろうか。俺が知らない、何かを)  具体的にどうというわけではない。漠然と思うだけだから、言葉にしづらい。  螢緋は布団を顔まで被って悶々とした。 「螢緋、どうしたの? 寒い?」  ペロっと布団を捲って、宇緑が覗きこんだ。 「もう秋だもんね。昼間はまだ暑いけど、夜は冷えてきたね」  宇緑が当然のように螢緋の隣に潜り込む。  腹を抱く宇緑の手を握った。 「螢緋、何かあった?」  耳元で宇緑の声がした。柔らかくて優しい声だ。 「何もない。でも、ちょっと……」 「ちょっと?」  螢緋は思い切って宇緑を振り返った。 「俺だけが、何も知らないんじゃないかって」 「何について?」 「……わからない、けど」  シュンと気持ちが萎んで、螢緋は俯いた。  宇緑の腕が伸びて来て、螢緋の顔を胸に抱いた。宥めるように背中を撫でる。 (温かい、心地良い)  宇緑の手はいつも温かくて、触れられると眠くなる。  ジワリと、胸の奥が熱くなる。 「螢緋、皆のこと、好き?」 「うん、好きだ」 「俺のことは?」 「宇緑が、好きだよ」  この場所にいたい。皆と暮らしたい。ここを居場所だと思いたい。  螢緋は宇緑に腕を伸ばした。 「それなら、皆を、俺を信じて」  宇緑の声が、鼓膜を揺らした。 「俺たちも螢緋が好きだ。螢緋を信じている」 「信じて……」  典薬寮に来るまでは、信じるなんて単語を知らなかった。 (信じたい、皆を、宇緑を)  この場所にいたいから、皆を信じていたい。 「うん、わかった」  心地良い熱に包まれて、螢緋は頷いた。  心の奥に刺さった棘は抜けないけれど、今は感じる熱を信じようと思った。  

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