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第13話 終夜のお手伝い
粧との潜入捜査から一週間ほどが経過した。
今日の螢緋は終夜の事務仕事を手伝っていた。
粧との潜入捜査で呪具ドラッグの黒幕が雲類鷲才貴であるらしいこと。
理由はわからないが、螢緋にドラッグを飲ませようとしていることが発覚した。
螢緋は捜査には出ず、典薬寮で待機になった。外の調査には粧と遊馬が出ている。
「どうして俺に、呪具ドラッグを飲ませたいんだろう」
終夜の書斎の掃除をしながら、螢緋は問い掛けた。
悩むような顔をした終夜が、戸惑いながら口を開いた。
「理由は……色々と、考えられますよ。邪魅を増幅させて人を狂わすドラッグですから」
「俺は多分、普通の人ではないよ」
人の中に人でない何かが混じった存在、それが螢緋だ。
自分の中に何が混じっているのか、才貴は教えてくれなかった。
『きゃはは! 傑作ぅ』
頭の中で声が響いた。体が震えて、強張った。
(なんだ、今の。誰の声だ?)
男とも女ともとれない笑い声だ。
知らないはずなのに、頭に響く。
「螢緋? どうしました?」
終夜が心配そうに螢緋を眺めた。
螢緋は頭を振って、トントン叩いた。
「ちょっと、変な感じが……」
「調子が悪いなら、掃除はもういいですよ」
「そうじゃない、大丈夫」
終夜が螢緋を、じっと見詰めた。
「螢緋の中に……何かが、混じっているのは、私や宇緑さんも気が付いています。何かの正体は、わからないのですが」
終夜の話声が、ゆっくりだ。言葉を選んでいるように聞こえる。
「そうなんだ」
気付いていても無理に暴こうとせず、詰問もせずに置いてくれる。それが螢緋にとっては嬉しい。
「雲類鷲が螢緋に呪具ドラッグを飲ませたがる理由は、想像に難くありません」
終夜の言葉に、螢緋は首を傾げた。
「螢緋の中に潜んでいる何かを目覚めさせるための起爆剤に、呪具ドラッグはなり得るのでしょう。雲類鷲は螢緋の中に眠っている何かの正体を知っている可能性が高いですから」
「そうか……そう、だね」
確かに終夜の言う通りだ。
螢緋には、雲類鷲の元で目覚めるより以前の記憶がない。
その前を知っているのは、雲類鷲才貴なのだろう。
(さっき、頭の中で響いた笑い声。何だったんだろう)
螢緋の胸に小さな棘のように残った。
「ドラッグの成分分析は桂伽がしてくれています。呪具ドラッグは、穢れの塊である邪魅が詰まった毒です。人にも、そうでない者にも与える影響は強い。螢緋は絶対に、触れてはいけません」
「わかった。終夜がそういうなら、約束する」
終夜はいつだって皆の意見を総括して導いてくれる。だから、言付けは守る。
「螢緋は素直ですね」
終夜が頭を撫でてくれた。褒められると嬉しい。
「この約束は、必ず守ってくださいね。宇緑さんも、心配しています」
「宇緑が、心配……」
宇緑に心配を掛けたくない。
終夜との約束が、一層大事になった。
「必ず、守る」
頷く螢緋に、終夜が微笑んだ。
「部屋はだいぶ片付きましたね。もう、終わりでいいですよ。次は桂伽を手伝ってあげてください。きっと、螢緋が来るのを待っているでしょうから」
終夜に大きなお菓子の箱を渡された。
「そろそろ、お菓子が切れる頃でしょうからね」
「それは、大変だ」
甘いものが切れると、桂伽は電源が切れたように動かなくなる。
螢緋はお菓子の箱を持って、終夜の部屋を飛び出した。
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