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第18話 知らない記憶
雲類鷲才貴との話し合いから二週間が経過した。
一度は沈静したと思われた呪具ドラッグが、また巷で流行り出した。
典薬寮も積極的に売人を捕え、特殊係に引き渡していた。
呪具ドラックの製造・販売には、雲類鷲才貴が関わっていると踏んで調べている。
だが、逮捕した売人は無関係のアルバイトばかりで、足掛かりさえ掴めずにいた。
「どう考えても、螢緋を表に炙り出すための揺動だと思うけどなぁ」
遊馬が珍しく苦い顔をしている。隣を歩く螢緋を眺めた。
「典薬寮にいたほうが良かったんじゃないか?」
「でもそれじゃ、呪具ドラッグの被害は増える一方だ。雲類鷲の狙いは俺なんだから、俺が動かないと始まらない」
「それは、そうだけど。螢緋が危険になるのには違いないだろ」
遊馬が息を吐いた。
「宇緑も出ていいって言った」
螢緋は、きっぱり言った。
「それだよ。宇緑さんの言い分も、わからなくはないけど」
遊馬が頭を抱えた。意外な反応に、ドキリとした。
『螢緋の中に隠れている何かは、恐らくきっかけがないと出てこない。表に出てきてくれないと、俺たちにもどうしようもないからね』
というのが、宇緑の言い分だ。
つまり、螢緋は相手の罠にかかるために出てきたわけだ。
(宇緑も皆も、三年間、俺の中の何かを探してくれていた)
伏見稲荷での雲類鷲は焦っているようにも感じた。
雲類鷲が三年も経って今更、回収を急くような何かが、螢緋の中に在る。
(雲類鷲に奪われる前に、俺の中の何かをはっきりさせて、取り除く。そのための任務だ。だけど……)
螢緋は、隣を歩く遊馬をこっそり覗いた。
「宇緑さん、思い切り過ぎだ」
難しい顔で遊馬が呟いた。終夜や桂伽、粧も似たような顔をしていた。
(本当に宇緑たちは、俺の中の何かの正体に気が付いていないのだろうか)
何があっても余裕で構えている典薬寮の面々にしては、表情が険しい。
(俺が思っているよりずっと危険な何か、なのかな)
その正体に、皆も宇緑も、気が付いているのかもしれない。
だからこそ、雲類鷲の罠にかかるような危険を侵してまで、螢緋の中の何かを引っ張り出して、取り除こうとしているのかもしれない。
不意に、宇緑の言葉を思い出した。
『全部、綺麗にできたら、螢緋の気持ちと向き合ってよ』
『螢緋が俺をどう思っているのか考えられるように、俺が全部、片を付けてあげるから』
あの時の宇緑は、切ない顔をしていた気がする。
(全部、片付いたら俺は、考えられるかな)
宇緑といると心地いい。ずっと一緒にいたい。
だから、この状況にも向き合おうと思える。
(懐かしいと感じるのは、三年も典薬寮にいるから。それだけ、だろうか)
宇緑の温もりを、あの手を知っている気がする。
(昔はもっと、小さくて頼りない、子供だった……)
恐る恐る握った子供の手は想像もしなかったくらい温かくて、安心した。あの時の子供の顔を覚えている。
そう考えて、自分の思考に驚いた。
(……今のは、何だ。子供の頃の宇緑なんて、俺は知らないのに)
胸の奥が、ざわりと音を立てた。
固く閉じていたはずの胸の奥の箱が開いていくような、そんな恐ろしさを感じた。
『やっぱり、わかってないか』
あの時の宇緑の言葉が頭を過る。
任務に集中しないといけないのに、宇緑の言葉が気になって仕方がなかった。
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