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第26話 変わらない気持ち
腕の中で螢緋が眠っている。
終夜の治療を終えて、気を失うように眠った。
さすがに神力を有する螢緋の呪詛は重かった。何時間眠ったかわからない。宇緑にしては重症だったと思う。
目を覚ましたら、宇緑の手を握ったまま螢緋が寝ていた。だからベッドに引き上げて、腕の中に囲った。
「最悪の状況にならなくて、良かった」
呪いで洗脳されてはいたが、祟り神にはならなかった。
あの程度なら、宇緑が呪いを受ければ対処できる。
「中途半端に目覚めるのが、一番怖い」
神力も記憶も、半端に戻れば呪詛の糧になりかねない。そうなれば、螢緋自身が壊れる。
「何があっても、守るよ」
螢緋が姿を消してから二年。
再会した螢緋は記憶をなくして、宇緑を殺しに来た。
それから三年、何も覚えていない螢緋と共に暮らした。
(覚えていない間、今までで一番近くで過ごせた三年だった)
恐らく、雲類鷲才貴の計画は瞬発的な暗殺に留まらない。
こうして宇緑が螢緋を保護する事態まで織り込み済みだったのだろう。
(俺を陥れるためだけに螢緋を利用した。あの男だけは許さない)
考え始めると殺意が隠せなくなる。宇緑は思考から雲類鷲を排除した。
何より大事な目的は、螢緋の中の呪詛を取り除くことだ。
「祟り神になんか、させない。絶対に」
そのためには記憶も神力も封じたまま、呪詛だけを祓う必要がある。
(祓うためには、一度は呪詛を発動させないといけない。発動の条件は、なんだ)
宇緑を刺した行為が、呪詛だと思っていた。しかし、首輪の洗脳だった。
恐らくは二重に呪いを仕込んできている。
次こそはきっと、螢緋の中の呪詛が発動する。
(備えなければ。絶対に失敗しないために)
奥歯を噛み締めて、決意を新たにした。
「ん……宇緑」
腕の中で眠っている螢緋が、もぞりと動いた。
「ふふ、可愛い」
今の螢緋は宇緑が知っていた狐神の姿とは違う。
あどけない十九歳の青年の姿をした螢緋だ。
(どっちも、可愛い)
記憶がなくても姿が違っても、宇緑にとって螢緋に違いない。
「約束……守って、くれた」
螢緋が口走った言葉に、宇緑は息が止まった。
「まさか、思い出して……」
宇緑は慌てて螢緋の額に手をあてた。指先に呪力を灯す。
(もう何度、寝ている間に記憶を封じてきただろう)
思い出してほしい。二人で過ごした時間を知っている螢緋に、宇緑と呼ばれたい。
けれど今はダメだ。思い出せば螢緋が危険だ。下手をすれば失う羽目になる。様々な想いが宇緑の中で交錯した。
宇緑は指先に灯した呪力を強めた。
「ごめん。もう少しだけ、忘れていて」
「ん……」
螢緋がまた寝息を立て始めた。宇緑は胸を撫で下ろした。
(起きたら、さりげなく確認しよう)
螢緋の顔を見下ろす。赤い唇が目に留まった。そっと指を滑らせる。
(少しだけ……)
掠るように唇を重ねて、すぐに離れた。
「次は起きている時に、ね」
濡れ足りない唇を、もう一度指でなぞる。
未練しか生まれない心に無理矢理に蓋をした。
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