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第40話 狐神の姿
次の日、目が覚めたら姿が人間に戻っていた。
「え? ……えぇ?」
鏡の前で呆然とする。螢緋は胸の辺りに神力を溜めた。
ポン、と音がして、狐神の姿に戻った。
「もしかして、切り替えられる?」
神力を意識すると、人の姿と狐神の姿を自分でコントロールできる。
「これは、もしかして……」
螢緋は狐神の姿に戻り、部屋を飛び出した。
リビングに行ったら、粧がいた。
「螢緋、おはよう。あれ、パジャマのまま?」
普通に挨拶された。螢緋は唖然と粧を眺めた。
粧が、不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「粧にも、この姿が見えるんだね」
「見えるよ、普通に。これでも呪禁師だもん」
粧が当然のように言いきる。
「あ、そうか。そうだよね。霊力や呪力がある人間には見えて当然なんだ。普通の人間には……」
「今の螢緋は普通の人間にも、見えると思いますよ」
後ろから終夜が声を掛けた。
「わっ! おはよう、終夜」
「おはようございます、螢緋。見える理由、教えましょうか?」
螢緋が何に戸惑っているのか、終夜にはわかったようだ。
「器になっていた人間の体と、融合しちゃったのかな」
鈴音が反魂術で蘇らせた人間の体と狐神の体が一体化したのだとしたら。螢緋は人間の体を手に入れた狐神になる。
「そうでしょうね。呪詛で祟り神になった時に、色々混ざったのでしょう」
「色々混ざったって、適当な」
「適当ではないですよ。色々の中でも一番大きいのは、神の核と人間の心臓の融合です」
「核と心臓……?」
ドクリと、心臓が鼓動を打った。
「恐らくですが、螢緋の体は心臓の鼓動を敏感に感じ取っているのではないですか?」
「それは、まぁ……」
「体や感情とも深くリンクしているでしょう」
そういわれると、思い当たる節がある。
(嫌なことや嬉しいことでドキドキするのは、そういうことなのかな)
狐神だった頃は、今ほど身体反応を気にしなかったかもしれない。
「じゃぁ、俺は何者になったんだ?」
普通の人間でも、狐神でもない。だったら、何なのだろう。
「螢緋は螢緋でしょ」
終夜が当然のように言った。
「……え?」
「そうだよ。螢緋は螢緋だよ。それより朝ご飯作るの、手伝ってよ」
粧がエプロンをして、米を研ぎ始めた。
「え? うん、手伝うけど」
「その前に顔を洗って着替えてきなさい」
終夜に肩を掴まれて、回れ右された。
「洗うけど」
「おぅ、おはよう、螢緋」
朝のジョギングから遊馬が帰ってきた。
「おはよう、遊馬」
「シャワー、使うな。粧、風呂から上がったら朝飯作り、手伝うな」
「ありがと、遊馬」
遊馬が普通に通り過ぎて行った。
「遊馬、早いよ~。疲れた」
ヘロヘロの宇緑がリビングに入ってきた。
「おかえりなさい、宇緑さん。久々のジョギング、どうでした?」
「朝から二十キロも走る? 遊馬って馬鹿なんじゃないの?」
「いつもの半分ですよ。宇緑さんに合わせて減らしたんでしょう」
終夜がさらりと言ってのける。
宇緑が信じられないものを見るような目で終夜を眺めた。
「もう無理、ご飯まで寝る……あ、螢緋、おはよう」
宇緑が、ぱっと顔色を明るくして螢緋に寄った。
螢緋の額にキスをして抱き寄せた。
「う、宇緑。皆、見ているのに」
恥ずかしくて額を抑えて俯いた。心臓がドキドキする。
(こういうのが、心と体がリンクしているってことなのかな)
螢緋は宇緑を見上げた。
「宇緑、俺……人の体と神の体が融合しちゃったみたいなんだけど」
「そうみたいだね。いいんじゃない、過ごしやすくて。螢緋はもう、人の体に慣れているだろうし、悪いことじゃないよね」
「そう……なのかな」
「そうだよ。それより、朝ご飯まで一緒に寝よう」
宇緑が螢緋の腕を引いて歩き出した。
「待って、俺、朝ご飯作るの、手伝わないと」
反対側から服を引っ張られて、螢緋は立ち止まった。
「おはよう、螢緋。狐神の姿、綺麗だね」
いつの間にかソファに座っていた桂伽が、螢緋を見上げた。
「おはよ、ありがと」
真っ直ぐな桂伽の言葉に素直に照れた。
「俺はどっちも好きだよ」
「うん……」
桂伽にまで褒められると、このままでいい気がしてくる。
「こら、桂伽。螢緋を口説かない。螢緋は俺のお嫁さんだからね」
宇緑が後ろから螢緋を抱き寄せた。体が宇緑の胸に倒れた。
「口説いてないけど、口説いてもいいよ」
すぃと桂伽が目を逸らした。横目に螢緋を流し見て、ニコリと笑んだ。
「口説くの禁止。螢緋、おいで」
「わわっ」
宇緑に腕を引かれて、螢緋は歩き出した。
(みんなが良いっていうなら、いいか)
何も解決していない気がする。なのに、さっきまでのような焦る気持ちは消えていた。
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