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第41話 雲類鷲家の顛末
祟り神事件から二日が過ぎた頃、宇緑の元に紫葉から連絡があった。
事件の日、紫葉は車だけ残して姿を消していた。
別の部屋に放置していた鈴音と雲類鷲の死体も消えていた。
『二人の遺体を回収したのは、雲類鷲の次男だ。才貴さんより質の悪い男だから、気を付けろ』
紫葉からは、そうメールが来ただけだ。
「紫葉自身がどうしているかまでは、わからないんだよね」
宇緑がスマホを眺める。
「その質の悪い次男に、どうにかされているんじゃねぇのか」
遊馬の言葉は冗談に聞こえない。
「雲類鷲の次男といえば、悪い噂は聞きませんね。品行方正な好青年のイメージですが」
終夜が宇緑に目を向けた。宇緑はスマホに目を向けたままだ。
「それが表の顔なのも、一部では有名。実際は残虐非道な呪毒師って話」
「本当だったら鈴音より質が悪いよね。足が掴めないけど」
桂伽の言葉に粧が続いた。
「桂伽は、詳細を知らないのですか?」
終夜が問い掛けた。
桂伽は昔、雲類鷲才貴に飼われていた暗殺者だ。内情を知っていてもおかしくない。
「雲類鷲家は、長男の才貴派と次男の瑞貴派に分かれてる。才貴の命令で探ったりしたけど、何も掴めなかった」
「跡取り争いもしていたって話だよね。次男派が優勢だったらしいよ」
粧の言葉に、終夜が気付いた顔をした。
「だから、雲類鷲才貴は典薬寮の寮頭に執着していたんでしょうか」
「それは、ありそうだな。肩書としては充分すぎる」
遊馬が納得している。
「俺は呪禁師協連の会合で何度か会っているんだけどね。桂伽は、会ったことや話したこと、ある?」
ずっと黙っていた宇緑が口を開いた。
「普通に会って、挨拶くらいなら」
「どんな感じだった?」
宇緑の問いに、桂伽が俯いた。
「……底が知れない。いつもニコニコしているけど、ただの笑顔じゃない、凄味……? みたいなのがある」
「ありがとう、大体わかった」
宇緑は眺めていたスマホを置いた。紫葉に返信はしないようだ。
「瑞貴には、才貴が死んで感謝されていそうだけど。雲類鷲家が典薬寮を攻撃する大義名分を与えたことにもなったね」
「向こうも表立っては、我々を攻撃できませんよ。先に暗殺を仕掛けてきたのは雲類鷲才貴です」
終夜の言葉に宇緑が頷いた。
「瑞貴は、表立って何かしてくるタイプじゃないよ。それに、仮に手を出してくるとしたら、ターゲットは螢緋だろうね」
全員の視線が螢緋に向いた。
「俺……? 俺が、雲類鷲才貴を、殺したから?」
「いいや。雲類鷲瑞貴なら、もっと……祟り神に対する、純然たる興味。そのほうがしっくりくる」
宇緑の指がコップの淵をなぞる。
「事件から二日経っても、才貴と鈴音の死亡確認がされていない。典薬寮にも呪禁師協連にも届が出されない。噂にすらならない……つまり、死んでいないんだよ」
ざわり、と全員の気が尖った。
「死んでないって、書類上、ですか」
終夜の隣で、桂伽が首を振った。
「もしかしたら、本当に死んでいないのかも」
「そんなこと、あり得るか? 祟り神に殺された人間が、生き返った?」
遊馬が険しい顔をする。
「反魂術でも、憑依術でも、黒の呪禁師なら生き返らせるのは簡単だ。呪術実験の良い素材になるだろうね」
宇緑の話は、確かにそうだ。黒の呪禁師の代表格である雲類鷲家は、そういう家柄だ。
「身内まで使うって怖いけど、雲類鷲家ならやりそう」
粧が身震いした。
「紫葉が俺にメールしてくるくらいだし、向こうも内部で何かがあったんだろうね。今後、何らかの動きがあるはずだ。皆、気を付けるようにね」
宇緑が全員を見渡す。皆がそれぞれに頷いた。
「特に螢緋は、一人にならないように。俺の傍を離れないで」
「うん、わかった」
宇緑が螢緋の手を握る。その手を握り返した。
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