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第9話
思わず「はい」と返事をしてしまった。
先輩は少し嬉しそうに笑って、隣の席へ腰を下ろす。
静かな図書室。
聞こえてくるのは、お互いがノートに文字を書く音と、ページをめくる音だけだった。
以前なら他愛ない話をしていたはずなのに。
今は何を話せばいいのか分からない。
沈黙を破ったのは先輩だった。
「最近、勉強どう?」
「……まぁまぁですね。」
「そっか。」
また静かになる。
少し気まずくなって、今度は俺から聞いた。
「先輩はどうですか?」
「そこそこかな。」
そう言って苦笑する。
「でも前より成績下がっちゃった。」
「どうしてです?」
先輩はシャーペンをくるりと回しながら、小さく笑った。
「魅琴に教えないとって思って、めっちゃ頑張ってたのに。」
「それが無くなったから。」
その言葉に、思わず手が止まる。
俺だけのために?
いや、そんなわけない。
きっと俺以外にも。
「……俺だけじゃなくて、他にも教えてた人とかいるんじゃないですか?」
できるだけ何でもないように聞いた。
先輩は少し驚いたような顔をしたあと、小さく首を横に振る。
「いないよ。」
短い一言。
それだけなのに、先輩は真っ直ぐ俺を見つめていた。
冗談でもなく。
誤魔化すでもなく。
ただ真剣な目で。
その視線に耐えられなくて、俺は慌ててノートへ目を落とした。
……まただ。
そんな目で見ないでください。
また期待してしまうから。
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