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くそみたいな日

 どちらかと言えば寝汚い人だ。そのくらいのことはもう知っている。  昨夜もまた、夏だからの一点張りで裸のまま寝ようとするのを、なだめてすかして起き上がらせて、どうにか服を着させた。俺の手が離れるなりぶつくさ言いながらベッドに戻っていって、こっち、とだけ言って俺もベッドに入らせて、そのくせ俺に背中を向けて寝た。で、そのままもう十二時だ。いい大人が何をしているのか。俺は朝も食べたし顔も洗ったし着替えたしその流れで洗濯機も回したし、なんなら今、リビングのソファで本を読んでいる。外に出るのはリスキーすぎるのでやらなかったけれど。  ページをめくる。現れた図表十五の一を指でなぞる。がたがたと音がする。近づいてくる。どっちだと思う。扉が開く。顔を見る。 「なんでいないの」  そっちの日か、と思う。 「もう十二時過ぎてるんだわ」  寄ってきて、俺の足元に座って、脚に抱き着く。 「それは関係ない」  膝に顎を乗せてくる。眉を寄せてはいない。どちらかといえばにやついている。この場合不機嫌面のパターンと比べて扱いが楽かといえばそんなことはない。 「起きるまで待っててって俺言ったでしょ。昨日」  言っていない。 「寂しいじゃん」  膝の裏をくすぐられる。試しに軽く頭を叩いてみたけれどやっぱりやめない。何が寂しいじゃんだ。気を使ってベッドで待っていたころ、目覚めるなり脚を蹴ってきて、なにしてんのもう十二時だぞ、とやられたことが割とある。心底呆れ顔で言う場合もあれば、ひゃひゃひゃと笑いながら言ってくる場合もあった。 「ねえ何してんの」 「本読んでる。どう見ても」 「何の本」 「仕事。どう見ても」 「そう」  脚に絡んでいた腕が伸びてきて、本に指がかかる。こうされるのは想定の範囲内だ。指に力を入れる。どうせもう読むに読めないんだからおとなしく渡してしまえばいいのだけれど、つい意固地になってしまう。このあたり、俺もまだ人間ができていない。  引っ張られて押さえつけて、思わず睨むとますますにやにやされて、とうとう折れて本を渡した。取ってしまったら妙に丁寧で、一ページ目に挟んでいた栞をきちんと挟みなおしてからテーブルに置いた。また俺の脚を抱きかかえる。 「わかった。飯食えよ作るから」 「食べない」 「食べないって」 「夜まで食べなくていい」 「バカ言え」  抱えられた脚を伸ばそうとしてみる。抱きつく力が思いのほか強くてどうにもならない。 「代わりにちゅーしよ」 「代わりにならねって」  脚に絡めた腕を少し上にずらして、伸び上がって、顎を突き出してくる。当然だ、みたいな顔だ。気が乗らないときは体に触られても無視するくせに。屈んでキスをする。ほんの一瞬。 「えー。これだけじゃ代わりにならない」 「代わりにならねえから飯を食え」 「えー。じゃあベッド戻ろ」 「全然じゃあじゃない」  腕がほどけた。脚を大きく広げさせられて、その間に体をねじ込んでくる。 「戻んないとちんちん舐めるぞ」 「どんな脅迫だ」  両手を脚の付け根に乗せられる。顔が近づいてくる。上目遣いでこっちを見ている。勘弁してくれと思うけれど、勘弁してくれという顔を見せたら、たぶんぴたりと手が止まる。手が止まって、数拍あって、声を立ててへらへら笑うだろう。この人はどうも、急所を隠すのがうまくない。ちょっと手が滑ると刺せてしまう。刺せてしまって、刺されたこの人はへらへら笑う。 「待って。待ーって」  頭を押さえる。股座から引き剝がす。上向かせる。 「飯食ったらベッド戻る」  上向いた顔の、口角が少し上がる。いい年こいて甘ったれた人だ。 「妥協案?」 「妥協しよう。お互い」  やっと立ち上がってくれた。ソファに座るかと思ったら立ったままいる。頷いて言う。 「妥協した。妥協したから手伝う」 「いや、いいけど」  別に料理のできない人ではない。というか本来俺よりうまい。手伝う、と言い出すのも、そう多くはないけれどあり得ないパターンでもない。ただ、別にやってほしくもない。座ってただぐだぐだ言っていればいいのにと考えるのが習慣になっている。 「遠慮しない遠慮しない。時間が惜しいからもたもたしない」  言いながら俺の脇を抜けて、キッチンカウンターに向かっていく。ついていく。冷蔵庫の中を覗いているのを見る。時間が惜しい、が今日の原動力か。昼過ぎまで寝ていた人間の言うことじゃあない気がするけれど、そう言ってみたところで仕方がない。この人はさっさと飯を作ってさっさと食って、ほらやってやったぞという顔をしながらベッドに戻って、戻ったらちんちんを舐めるだろう。  ちんちん舐める、とかいう語彙が定着してしまっている。よくない。よくないけれどたぶんもう一生この調子だ。くそったれ。

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