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キト 視点
その日、木田が寝落ちした途端、冴島が僕に言った。
「今日はキトに鳥族の交尾を教えてもらったしさ、お礼に俺が人間の交尾を教えてやるよ」
は? いきなり何の話だよ。
「そんなの教えてくれなくても知ってるよ」
僕はそう断ったはずなのに「まあいいからいいから」とか「百聞は一見にしかずって言うだろ?」とか言って、冴島は僕の手を取って立ち上がった。
お酒が入ってふわふわしていた僕は、気づけば冴島の寝室にいて、あれよあれよという間に服を脱がされて、ベッドの上で冴島に跨られていた。
どういうことだよ。
というか、なんでそんなに嬉しそうなんだよお前は……。
「キト……」
冴島はなんだか大事そうに僕の名前を呼んで、僕のふわふわの羽に覆われた胸元に顔を埋めてくる。
「すーげぇふわふわ……」
「っ、そこで喋るなよ、くすぐったい」
それから冴島は、普段の姿からは考えられないくらい丁寧に僕の身体をあちこち撫でまくった。
いつもへらっと笑ってる冴島が、こんなに真剣な表情で僕の身体を探っている……。
なんだか変な空気になりそうだったところへ木田が来てくれて、僕はホッとした。
木田がいてくれれば大丈夫だ。
だって木田は面倒見が良くて常識人で、僕や冴島が常識外れな行動をしそうになると、いつも止めてくれる。
僕は安心して、冴島の誘いに頷いた。
木田がいてくれるなら、冴島が無茶をしそうな時にはきっと止めてくれる。
そう思うだけで、初めての感覚も、そんなに怖くない気がした。
僕の胸を優しく撫で回していた木田の指が、今度は僕の嘴の付け根を押してくる。
途端に、腰の羽がブワッと広がりそうな感覚がした。
「んんっ」
木田の指は僕が反応する場所を探るようにして、僕の嘴周りを順に押してくる。
あまりに優しい刺激が物足りなくて、僕は木田にねだった。
「もっと、ぎゅって、してよ……」
木田は「分かった」と答えて、力を込めてくれる。
「んぅっ……」
待ち望んでいた圧迫感に喉が震える。
「もしかして、少し爪を立てた方がいいのか?」
木田が尋ねると、冴島が「あー、そっか、嘴同士だと硬いもん同士なのか? けどそこ退化してんだろ?」と不思議そうに瞬く。
「わ、わかんな……、ぼく、だれかと、したこと、ない、から……」
僕の答えになっていない答えに、冴島はデレっと笑って言った。
「へへ、初めてだもんなぁ。かーわいいなぁ。じゃあ試してみっか、木田やってみろよ。耳周りも任すけど、反応激しいからあんまやり過ぎんなよ」
「分かった」
木田は相変わらず落ち着いた返事を返していて、その度に僕はホッとする。
冴島は浮かれていてなんだか心配だけど、木田が落ち着いててくれたら、僕は大丈夫でいられる気がする。
グッと木田の指が僕の嘴跡を鋭く押した。
「ぅあぁんっ!」
ビリビリと突き刺すような刺激が僕の背筋を通って穴まで響く。
「は……ぁ……」
急激にバクバクした心臓に、視界が涙でじんわり滲む。
思わず腰まで揺れてしまって、冴島がパッと手を離した。
「おー、あぶね……。怪我させるとまずいんで、ちょい腰押さえるけどいいか?」
「う、うん……」
「木田はそれ良さそうだから、じっくりやってみてくれな」
「あ、ああ、分かった……」
木田の声が少し上擦っていて、僕は木田を見上げる。
僕を見つめる木田の目には、なんだか冴島に似たじっとりしたものが混ざっていた。
……なんでだろ……。
「つかそれって齧った方が早いんじゃねーかな。キト、キスって許せる?」
「キ、ス……?」
「おう、キスの経験あるか? ファーストキスなら流石にやめとく」
僕は回らない頭でなんとか記憶の引き出しをひっくり返す。
えーと……確か……。
幼稚園の頃、仲の良かった女の子にカジカジされて……、その子のお母さんが大慌てで引き剥がして、謝りまくってて、びっくりした記憶が……。
「ある、よ……」
「そんならいいか?」
冴島が首を傾げて僕に尋ねる。
なんだかよく分からないけど、僕に何か了承を取ろうとしてる事だけ理解して、僕は「うん、いいよ……」と頷く。
「木田、そーっと歯を立てて様子見てみろよ」
「いや、俺の方がファーストキスだ」
「うお、まさかのそっちか。んじゃ俺が……」
冴島が顔を近づけてくる。
デレッとした顔をするくせに、それでも冴島は顔がいい。
人間の美醜はよく分からない部分もあるけど、冴島は誰が見てもかっこいいと思う。
僕は思わず顔を背けた。
「……やだ、木田が、いい……」
「え……マジで……? なんか俺って、キトからの好感度低い……? それとも木田がめちゃくちゃ高い……?」
冴島が泣きそうな顔で言う。
なんでこの男はそう感情がストレートに顔に出るんだよ。
そうじゃないって。
僕は別に冴島が嫌いなわけじゃない。
「そうじゃ、ない……けど……、冴島、うまそうで、やだ……」
僕の言葉に冴島が驚いたような顔をする。
それから、へへへと嬉しそうにニヤけて木田に尋ねた。
「ご指名だけど、木田はどーする? 別にこのまま手で弄ってても悪かなさそうだし無理するとこじゃねーからな?」
「俺は構わないが、正直どうすればいいのか分からん」
「んじゃ、ファーストキスに挑戦してみるか。キトの嘴が覆えるくらい、大きめに口開けてみな」
木田の開いた口にはずらりと白い歯が並んでいて、薄暗い部屋でくっきりと浮かんで見えて、ちょっと怖い。
だって鳥族には歯なんてないし。
人間は雑食だから、それって肉も噛み切れるんでしょ?
噛まれたら痛そうだな……。
木田は僕の怯えに気づいたのか、僕を宥めるような眼差しで、ふ。と微笑んだ。
それだけでホッとしてしまうから、木田は不思議だ。
「そんでそのままキトの嘴の付け根くらいから、やさしーく歯を当ててく感じで。ガブっとしなくていいからな。歯でゆるーく挟む感じな」
「ああ、やってみる」
木田はそれだけ答えて僕の嘴にそっと覆い被さってくる。
木田の硬い歯が僕の嘴の付け根にコツンと当たると、ビリビリとした感覚が嘴から僕の尾羽まで貫くように走った。
「あっ」
声と同時に、勝手に腰が揺れてしまう。
けれど僕の腰は冴島の手にがっちり押さえられていて、ほんの少し揺れただけだった。
僕がもどかしさに身を捩ると、冴島は僕の様子をじっと見てから、腰を押さえていた手を離した。
「これ、腰は好きにさせる方が良さそうだな。キト、一回イってみな、見ててやっから」
「見……っ、見て……!?」
何でだよっ!?
僕の抗議の声に、冴島はケロリと答える。
「見てねーとわかんねーじゃん。木田、その調子でな」
「わかった」
木田の返事は僕のすぐそばから聞こえて、木田のちょっと酒臭い口が僕の鼻ごと嘴を優しく覆う。
鼻から入るアルコールの匂いに、なんだかくらくらする。
「やあ、あ、あっ」
木田がそっと嘴を齧る度に、ゆらゆらと腰が揺れてしまう。
けど僕の穴には当たるものがなくて、もどかしくて……。
うつ伏せになりたい。
せめて布団に穴を押し付けたい。
そう思った途端、僕の穴にグッと押しつけられたのは冴島の手だった。
待ち望んでいた刺激に、ゾクゾクと羽が逆立つ。
「あっ、ぅ、あ、あっ、ンンンンっ」
冴島が両手で輪を作るようにして、僕が左右に振る穴と擦れるようにしてくれている。
ほのかに温かい冴島の手が、ずりずりと擦れる度にすごく……っっ。
「ぁ、ぁ、イッ、イクよぉっ」
思わず口にした僕に、冴島はニッと嬉しそうに笑った。
なん、で、そんな嬉しそうな顔するんだよ……っ。
「んんんっ、うううんんっ」
僕の射精はいつもよりずっとずっと長くて、身体中が熱くて、震えるくらい気持ちが良くて……。
ああ、これが冴島の言ってた『性的な快感』なのか、と僕は身をもって知った。
「冴島、大丈夫か?」
いつも落ち着いた木田の声が、珍しく少し焦っている。
あまりの気持ちよさにギュッと閉じてしまった目を開いてみると、僕の前にいた冴島は、僕の精液まみれになっていた。
「ははっ、すげー。思ったより勢いあったな」
冴島は嫌な顔ひとつしないで「顔射じゃん」なんて笑っている。
僕のが……冴島の綺麗な顔にかかってる……。
そう認識した途端、心臓がドッと鳴った。
「目に入るぞ、拭いてやるから目と口閉じとけ」
木田が、サッとベッド脇のティッシュ箱を取って「ん」と目を閉じた冴島の顔を拭き始める。
髪や目を木田が丁寧に拭き取る間に、冴島は頬から顎に垂れてきた僕の精液を指で掬うと、べろっと舐めた。
「なっ、何してんだ冴島っ!」
僕が慌てて言うと、冴島は「味見」と答えた。
「味見!?」
「俺達とあんま変わんねーけど、ちょいマイルドっつーか、あっさりしてる感じ……?」
冴島は僕の精液の味を確かめるように、頬や顎に散った僕のを集めて、もうひと舐めふた舐めと口に運ぶ。
冴島の舌が僕の雫を舐めとるその姿から、なぜだか目が離せない。
冴島の髪と目元を拭き終えた木田がティッシュ箱を冴島に手渡しながら尋ねる。
「冴島は、他の種族のも味見した事があるのか?」
「味見っつーか、俺あんまNGプレイってねーしな。舐めて欲しけりゃ舐めるし、飲んで欲しけりゃ飲むぞ?」
「ある意味大物だな……」
木田の呟きに、僕も思わず同意した。
冴島は目を開けて、何度か瞬いてから「さんきゅな、木田」と木田に礼を言う。
あ、そうだ、僕も……。
「冴島、ごめん、かけちゃって……」
「あ? ヘーキヘーキ、かけたりかかったりなんてヤってりゃよくある事だし、キトが悪いんじゃねーからな、全然気にするとこじゃねーぞ」
冴島はそう言って笑いながら僕の頭を撫でた。
「あ。そだ、終わったらさ、三人で一緒に風呂入んねぇ?」
冴島の言葉に木田が「構わないが」と答える。
僕も「いいよ」と答えると、冴島は嬉しそうにニッと笑う。
「じゃあ俺ちょい風呂のボタン押してくるな、木田はキトが冷めねーよーに撫で回しといてくれ」
冴島はそう言い残して、パタパタと部屋を出ていった。
「……だとさ。キトはまだ体は辛くないか?」
木田はそう言いながら、僕の後ろに座ると、僕の体を後ろからそうっと抱き寄せる。
木田の低くて優しい声が耳元で聞こえると、何だか尾羽のあたりがぞわぞわする。
嫌な感じじゃないんだけど、なんか、落ち着かない……モゾモゾした感じ。
「んー……今イったとこでちょっと眠いけど、木田も冴島もまだ出してないのに、僕だけ寝るのもね」
僕の答えに、木田が小さく苦笑して「そうか、ありがとう」と言った。
僕の前に回されていた木田の手が、僕の羽を掻き分けて僕の肌へと触れる。
「……っ」
「キトは俺や冴島がキトに突っ込むのは許せるのか?」
「やっぱり僕が入れられるんだ? そんな気はしてた」
「嫌なら言えば、冴島も無理にとは言わないだろう」
「嫌ではないよ、痛くなければだけどね」
「冴島なら痛まないようにするだろうな」
「だよね」
二人でクスクス笑っていると、冴島がパタパタと小走りで駆け戻ってくる。
「お待たせーっ、て、なんか二人いいムードだなー、俺も混ぜてくれよっ」
こういう時に、嫉妬をするでもなく疎外感に委縮するでもなく、混ぜてと素直に輪に入ろうとするのは、冴島の好ましいところだと思う。
「あー、キトのIQがだいぶ復活してんじゃん、もっかい蕩かそーぜっ!」
冴島の提案に木田が小さく笑って「わかった」と答える。
IQが復活ってなんだ?
そう思ううち、僕は二人に優しく触れられて、みるみる思考力を奪われた。
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