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第5話

 ドアチャイムの音が鳴り、坂本は腰を上げた。久保が作りすぎたから肉じゃがを届けると電話をよこしたのは30分前。そろそろ来る頃だろうというタイミングで鳴ったチャイム。  坂本はドアの向こうを確認することなく鍵をあけドアを押し開けた。 「わざわざ悪かったな」 「礼にはおよびませんよ」  坂本は左足を三和土に残し、右足だけ靴をひっかけた体勢で顔をあげた。そこには半ば諦め、半ば期待していた男が立っていた。 「肉じゃがはありません。久保さんに協力してもらいました」 「ちっ」  グイとドアが開けられ体重をかけていた坂本の身体がグラついた。宮田はドアを支えていた坂本の左腕をとり、あっさりドアを閉めた。一気に距離感が狭まり坂本は息苦しくなる。  宮田はしゃがみこみ、靴から坂本の足を抜いて三和土に戻したあと、自分も靴を脱いで上がり込んだ。その有無を言わさない迫力に坂本は黙るしかない。そもそも何も言葉が浮かばなかった。 「貴方はなにも言わずに消えましたね。言葉にしないで行動で俺に言い訳をした。じゃあ俺もそうさせてもらいます」 「どういうことだ?」  グイと腕を引かれ坂本はよろめいた。ワンルームの限られたスペースでは逃げ場はない。そのまま隅にあるベッドに仰向けに放り投げられた。 「どういうつもりだ!」 「こういうつもりです」  坂本の胸に馬乗りになって動きを封じると、宮田は自分の首からネクタイを抜いた。坂本の目が見開かれる。怯えと不安、そして怒り。 「怒ればいい。一人にされて俺が怒らないとでも?俺みたいな若造は放り捨てられるのがお似合いとでも?言っておきますが、俺だって男です」  あっけなく腕をとられベッドヘッドにネクタイで縛り付けられた。 「ほどけ!」 「いやです」  坂本は悠然とスーツとシャツを脱ぎ捨てる宮田を見るしかなかった。蹴り上げた膝は空を切るばかり。もがいても腕の自由は戻ってこなかった。 「いっそのこと俺を嫌いになってくれませんか」  坂本はその目を見たことを後悔した。濡れたように光る宮田の瞳は、変わらない心を映していた――坂本への恋心を。  

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