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第6話

「う……やめろ」  坂本の声は擦れていた。すでに部屋の中は暗くなり、諦めに比例し体力も失われていった。そして抵抗する意欲も底をついた今、言葉を力なく発するくらいしかできることはない。 「そのわりにはちゃんと勃っているじゃないですか」  薄暗い部屋の中で宮田の汗で濡れる身体が見える。腕の自由を奪われ、下肢は痺れて動かない。膝を立てるように縛られていたせいで、ほどかれても感覚が戻らなかった。 「もう……でない」 「出なくてもかまいません」  吐き出された自らの白濁で坂本の腹は汚れていた。幾重にも重なった欲望の印は乾き始めている。執拗に施された前立腺マッサージと陰茎への刺激で何度も絶頂に導かれ、頬には幾筋かの涙の跡が残っている。宮田の言う言葉ではない言い訳は文字通り「体に聞く」ことだった。いつもとは逆の立場で散々愛撫され、生理的な涙と情けなさ、そして屈辱の底に芽生えた快感により坂本のプライドは砕けた。もう何をされてもいい――そんな風に受け入れてしまうほどに。 「全部貴方が俺に教えたことです」  ベッドに結び付けられていたネクタイが解かれる。肩の関節がギシギシと軋んだ。 「いいですよ、殴っても」  腕も足も動かない。そして自分を見下ろしている男を殴りたいのかすらわからない。顔をしかめても、眉間に皺を寄せても年下の男の瞳は綺麗に濡れていた。そして熱かった。内に燻る想いを隠すつもりがないのだろう。引き結ばれた唇は何も語らないが視線は刺さり続けた。坂本に抱かれている時と同じく蕩けているくせに熱を帯びた目。 「これからが本番です」  唇が塞がれる。何日ぶりのキスだろう。そんなことを考えてしまったせいで、潜り込む舌先を簡単に許してしまった。歯列をなぞり唇を舐め、ねっとりと舌に絡まる馴染みのある感触に坂本の項がゾワリと震えた。散々弄られた後だけに頬を優しく包まれ施される口づけはやけに甘く感じる。  唾液の糸を引きながら離れていく唇を目で追ってしまう。親指の腹で唇を撫ぜられ、たまらず舌先で追う。浅く咥内に埋められた親指に迷いなく舌を絡めた。熱く滾った欲望の代わりに溢れる唾液と共に舌を使い舐めあげた。 「全部俺に委ねて」  耳たぶを甘噛みされながら囁かれ、坂本は僅かに纏っていたプライドの破片を手放した。  

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