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第8話 達也サイド<練習生の初日>
アニメプラスに入って、レジデンスに身の回りのものをレンタカーで運んだ。
部屋は普通のワンルームのホテルの部屋だから、狭いし冷蔵庫も小さい。
でもここが俺の居場所なんだと思った。
芸能界なんだから、いつここを出ていくのかは分からないけど、死に物狂いで皆について行かないといけない。
俺は歌もダンスもピアノも、今まで正式にレッスンを受けることが出来なかった。
自己流でどの程度進めるのかは分からないけど、採用してもらったんだからやり通さないといけない。
ろくに稼げないのにもう給料をもらえるって、第一歩にしても恵まれすぎている。
肝に銘じて頑張ろう。
最初のステラビートの練習に混ぜてもらった。
彼らはプロのダンサーだ。
もう何年もやっている。
そこへいきなり素人が入るのは本当に厳しい。
トレーナーの指示が何を言われているのか、全然分からなかった。
ただ一番後ろにいて、見様見真似をするだけだ。
一息を入れる時でも、誰も俺に声をかけてくれなかった。
そうだよね。今は俺が一番足を引っ張ってるよ。
自覚しているし、しょうがない。
時間が経つのを待とうと思う。
予想外だったのは、ダンスグループなのにボーカルの練習があることだ。
そうなんだ。バックのコーラスとかやるのかな?
俺も楽譜を貰った。初見で歌わないといけなかった。
皆が息を呑んで見守っているのがわかった。
ピアノの前奏が始まると、俺は歌った。
これくらいの楽譜なら読める。
出来はどうかは知らないが、なんとか全部歌えた。
誰の曲なんだろう? 聞いたことがなかった。
作曲者の名前もない。
そして次々とステラビートのメンバーが歌った。
みんなちゃんと歌える。すごいよね。
ダンスだけでも凄いのに、歌も出来るんだ。
そうやって、なんとか最初の1日を終えた。
俺は早速菜の花弁当を頼んでいた。
上のレストランで受け取るそうだ。
そこで食べてもいいし、部屋で食べてもいいと聞いていた。
ドリンクバーがあって、それは自由に飲んでいいそうだ。
なんて恵まれているんだろう。
信じられないよ。
俺は初めてなので、そのままレストランの隅の方で食べることにした。
食べると美味しい。
ああ、何もしないでこんなに美味しいお弁当が食べられる。
買い物をしなくていいんだ。
恵まれすぎだよ。
「ここ良いか?」と突然声をかけられた。
「あ、はい、どうぞ」
見上げるとステラビートの一人だった。
なんだか急に緊張して喉に通りにくくなった。
しばらく食べていると、
「お前、結構歌がうまいんだな」と言ってくれた。
「え? あ、ありがとうございます」
お礼を言った。
名前が分からなかった。
「あのう、お名前は?」
「俺はリョウ。まだ準レギュラーだ。ここでは皆ニックネームがあるんだ。
お前は達也だろう? タツでいいか?」
「はい、いいです……あのう、準レギュラーってどういうことなんですか?」
「お前、何も知らないで来たのか?
ステラビートにもレギュラーの6人と、準レギュラーの4人がいて、
給料も出演の回数や出番も全部変わるんだよ」
呆れたような表情をされた。
「そうなんですか。知らなかったです」
「お前はめでたいヤツだなあ」ふっと笑われた。
「そうですよね。これから教えていただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします」
深く頭を下げた。
声をかけて貰えただけでもうれしい。
だって初日だもんね。
でも皆さんの名前を早く覚えなくてはいけないと思った。
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