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第9話 達也サイド<録画>

 数日経つと、トレーナーの指示が少しずつ理解できるようになってきた。 だが、俺は基本を知らない。 真似をして同じように動いているつもりでも、何かが決定的に違う。 自分でも納得がいかず、もどかしさが募るばかりだ。 練習が終わる頃、夏さんが様子を見に来てくれて、「ちょっと」と声をかけられた。 なんだろう……。出来なさ過ぎてクビか? 覚悟を決めてついて行くと、夏さんは穏やかな笑みを浮かべて尋ねた。 「吉沢君、少しは慣れた?」言葉に詰まる。 「……頑張ってはいるんですけど、俺には基礎がないから。皆とはどうしても違って見えてしまって」 夏さんは、俺の言葉をじっと受け止めてから言った。 「君は自分でそう思っているの?」 「はい。明らかに何かが違うんです。どこだと断言するのは難しいんですけど……」 「ふふ。じゃあ、まずはそう思って練習に励んでみて」 「はい。頑張ります」夏さんはそれだけ言って戻って行った。 なんだか自分にがっかりだ。 そんなふうに落ち込んでいると、リョウさんが話しかけてきた。 「夏さんは何の用だったんだ?」 「……少しは慣れたか?って聞かれました」 「そんで、お前はどう答えたの?」 「基礎がないから、みんなとどこか違うみたいです、って……」俺は正直に打ち明けた。 それと、親がいなくて習い事なんてできる余裕がなかったこと。 歌もダンスも、基礎から教わったことがないことなどを話した。 リョウさんは「ふーん、そうなんだ。……まあ、頑張れよ」と短く言い残して去った。 ――なんだか分からない。 何が正解なんだ? そうだ! 録画できないかな。 みんなと一緒の時の俺の姿を見れば、何が違うのか分かるかもしれない。 でも、怒られるだろうか。 他の人の動きまで撮ってしまうわけだし。 ――いや、怒られてもいい。 こっそり隅から録画しよう。 翌日、俺はスタジオの隅にスマホをセットして録画ボタンを押した。 ダンスをすること二十分。 息継ぎのタイミングで慌ててストップを押す。 「タツ、何やってんだよ?」リョウさんに咎められた。 「すみません。自分のダンスが皆とどう違うのか知りたくて」 「……ふーん」すると、そのやり取りを聞いていたリーダーのゲンさんが声をかけてきた。 「お前、やるなら中途半端にするな。前の中央にセットしろ」 「えっ、いいんですか? ありがとうございます!」俺は深く頭を下げた。 ゲンさんの言葉に甘え、今度は前の中央にスマホをセットする。 「さあ、もう一度行くぞ!」ゲンさんの号令でダンスが始まる。 今回は撮りっぱなしにした。 練習後、ゲンさんがやってきて「見せてみろ」と言った。 スマホを渡すと、画面を覗き込んだ彼が口を開く。 「なるほどね。お前さ、タイミングがずれてるんだよ。 誰を見てやってんだ? 自分を信じて音楽に合わせてみろ」 「はい……、ありがとうございました」 そうか、人のダンスを追うことばかりに必死で、自分のリズムを見失っていたんだ。 今夜、録画した動画を徹底的に研究しよう。 その日から、俺の練習場所は階段の踊り場になった。 ここなら誰の真似をすることもなく、自分の音楽に集中できる。 ようやく見つけた自分だけの練習場。 俺は何度も録画することを心に誓った。

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