9 / 53
第9話 達也サイド<録画>
数日経つと、トレーナーの指示が少しずつ理解できるようになってきた。
だが、俺は基本を知らない。
真似をして同じように動いているつもりでも、何かが決定的に違う。
自分でも納得がいかず、もどかしさが募るばかりだ。
練習が終わる頃、夏さんが様子を見に来てくれて、「ちょっと」と声をかけられた。
なんだろう……。出来なさ過ぎてクビか?
覚悟を決めてついて行くと、夏さんは穏やかな笑みを浮かべて尋ねた。
「吉沢君、少しは慣れた?」言葉に詰まる。
「……頑張ってはいるんですけど、俺には基礎がないから。皆とはどうしても違って見えてしまって」
夏さんは、俺の言葉をじっと受け止めてから言った。
「君は自分でそう思っているの?」
「はい。明らかに何かが違うんです。どこだと断言するのは難しいんですけど……」
「ふふ。じゃあ、まずはそう思って練習に励んでみて」
「はい。頑張ります」夏さんはそれだけ言って戻って行った。
なんだか自分にがっかりだ。
そんなふうに落ち込んでいると、リョウさんが話しかけてきた。
「夏さんは何の用だったんだ?」
「……少しは慣れたか?って聞かれました」
「そんで、お前はどう答えたの?」
「基礎がないから、みんなとどこか違うみたいです、って……」俺は正直に打ち明けた。
それと、親がいなくて習い事なんてできる余裕がなかったこと。
歌もダンスも、基礎から教わったことがないことなどを話した。
リョウさんは「ふーん、そうなんだ。……まあ、頑張れよ」と短く言い残して去った。
――なんだか分からない。
何が正解なんだ?
そうだ! 録画できないかな。
みんなと一緒の時の俺の姿を見れば、何が違うのか分かるかもしれない。
でも、怒られるだろうか。
他の人の動きまで撮ってしまうわけだし。
――いや、怒られてもいい。
こっそり隅から録画しよう。
翌日、俺はスタジオの隅にスマホをセットして録画ボタンを押した。
ダンスをすること二十分。
息継ぎのタイミングで慌ててストップを押す。
「タツ、何やってんだよ?」リョウさんに咎められた。
「すみません。自分のダンスが皆とどう違うのか知りたくて」
「……ふーん」すると、そのやり取りを聞いていたリーダーのゲンさんが声をかけてきた。
「お前、やるなら中途半端にするな。前の中央にセットしろ」
「えっ、いいんですか? ありがとうございます!」俺は深く頭を下げた。
ゲンさんの言葉に甘え、今度は前の中央にスマホをセットする。
「さあ、もう一度行くぞ!」ゲンさんの号令でダンスが始まる。
今回は撮りっぱなしにした。
練習後、ゲンさんがやってきて「見せてみろ」と言った。
スマホを渡すと、画面を覗き込んだ彼が口を開く。
「なるほどね。お前さ、タイミングがずれてるんだよ。
誰を見てやってんだ? 自分を信じて音楽に合わせてみろ」
「はい……、ありがとうございました」
そうか、人のダンスを追うことばかりに必死で、自分のリズムを見失っていたんだ。
今夜、録画した動画を徹底的に研究しよう。
その日から、俺の練習場所は階段の踊り場になった。
ここなら誰の真似をすることもなく、自分の音楽に集中できる。
ようやく見つけた自分だけの練習場。
俺は何度も録画することを心に誓った。
ともだちにシェアしよう!

