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第11話 達也サイド<ゲンさんのレッスン>
今日も夕食の後、駅前のスタジオに向かった。
個室のピアノで歌の練習を終え、上のダンススタジオへ向かう。
例によって誰もいない。その静寂が嬉しかった。
今日のレッスンで習ったダンスビデオを流しながら、練習を始める。
今回の曲はまだ振り付けが固まっておらず、
トレーナーとメンバーが試行錯誤しながらフォーメーションを調整している段階だ。
そのため、終わった直後は頭がごちゃごちゃで、何が正解なのか混乱していた。
スマホの録画を見返しながら動きをなぞるが、どうしても何かが違う。
首を傾げていた時だった。
「あれ? お前、来ていたのか?」
声をかけられ振り返ると、リーダーのゲンさんが立っていた。
「あ、はい……。ここをお使いになりますか? でしたら俺は切り上げます」
「おいおい、そこまで気を使わなくていいよ。それより、何悩んでるんだ?」
「……今日習ったところが全然分からなくて。
録画を見ても結局どう決まったのか……、どんどん振付が変わっていくので」
ゲンさんはふっと笑った。
「まあ、いつものことだよ。一緒にやってみるか?」
「え、いいんですか?」
ゲンさんは最初から、少しずつ動きを紐解いてくれた。
彼の踊りはプロらしいキレと、腰の柔軟な使い方が際立っていて圧倒された。
三十分もすると霧が晴れるように動きがクリアになっていく。
「いいか、ここはまだ保留になった部分なんだ。
だから二通りのパターンを覚えておかないと困るぞ」
「はい、分かりました!」
一時間ほど繰り返すと、俺は今日習ったところを完全にマスターできた。
「ありがとうございます。お陰様で、かなりすっきりしました」
「うん、そうか。頑張れよ」
これ以上はゲンさんの邪魔をしてはいけないと、その場を辞した。
残りの練習は、いつもの階段の踊り場で仕上げよう。
翌日のレッスン。
トレーナーが昨日のダンスを確認すると言い出した。
「ちょっと昨日のところ、やってみて」
音楽が流れる。
俺は昨日みっちり身体に染み込ませていたので、自信を持って踊れた。
「へえ~、達也、いいねえ。ゲン、一緒に前に出て二人で踊ってみてよ」
えっ、と驚いていると、ゲンさんが俺の顔を見て「来いよ」と小さく顎で合図をくれた。
俺は頷いて前に出る。
音楽に合わせて身体を動かす。
昨日二人で練習した通り、バッチリと決まった。
何より嬉しかったのは、ゲンさんと息が完璧に合ったことだ。
気持ちがいいほど呼吸が揃い、リズムに合わせて一体となって動けた。
「はいはい、ストップ。達也は上達したねえ~」
トレーナーからの賞賛に、チラッとゲンさんと目があった。
俺は控えめに会釈を返す。
昨日練習したことは、二人だけの内緒だ。
列に戻って床に座ると、リョウさんがそっと耳打ちしてきた。
「いつの間にやったんだよ?」
「昨日、練習しました」
俺はそれだけ答えた。
リーダーから直接教わったなんて、口が裂けても言えない。
それでも、今日もまた新しい振り付けが増えた。
ああ、これも今夜のうちに習得しないとな……。
またスタジオに行くしかない。
給料をもらっているんだ。
やるしかない。
俺は気持ちを切り替えた。
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