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第13話 夏輝サイド<事務所の大失敗>

 今日、颯太さんに連絡して、新曲が出来たのでMVを作ることを伝えた。 しかも作詞は木内真亜子さん。 作曲はうちのエースでヒットメーカーの森戸由貴君。 もうヒット間違いなしの、素晴らしい曲が出来た。 颯太さんの透明で美しい声に、この曲がドンピシャなんだよ。 本当は俺が歌いたいくらいなんだけど、今回は我慢。 颯太さんが奇跡のようにうちに入ってくれた。 アニメプラスとしては、この幸運を逃す手はない。 颯太さんの人気は根強い。 この二年間ほとんど休止状態なのに、SNSでは復帰を願う声が止まない。 楽譜を渡すと事務所のキーボードを弾きながら、すぐ初見で歌ってくれた。 この辺がもう、普通の歌手とは出来が違う。 練習が要らない。とにかく美しい。 まるでじっくりと練習していたかのように聞こえる。 事務所中が手を止めて聞き惚れた。 「素敵な曲ですねえ、うれしいです。本当にありがとうございます」 颯太さんにもすごく喜ばれた。 しかし、思わぬ方向に流れた。 「ええと、いいかなあ?ちょっとお願いがあるんですけど」と颯太さん。 「はい、何でしょうか?」 「この前紹介した吉沢達也君なんですけど、 もし良かったら、このMVのどこかに彼を入れてやっていただけませんか? 彼の声は素晴らしいので、そろそろ練習も出来ただろうし、いいのかなって思うんです。 顔だけでもいいですよ。イケメンだから、チラッと出てもバズっちゃうかも」と颯太さん。 その瞬間__いやな顔は出来ない……。 「はい、そうですね。トレーナーの話だと、 格段に練習が進んだと褒めていました」 そう話を合わせた。 そして結局、 「ではMVのどこかにチラッとだけですけど、出演できるようにしますね」 と言ってしまった。 「はい。喜ぶと思います。どうぞよろしくお願いします」 颯太さんは喜んだまま、楽譜を抱えて帰った……。 チラッと桐生さんと目が合って、同じことを考えたのが分かった。 「桐生さん、ちょっと俺の理事長室に行きましょうか」 「はい、承知しました」 部屋に入るなり、俺は言った。 「どうしよう……?」 「いやあ~私も参りました。 確かに吉沢君は声もきれいだし、ダンスもうまい。 ただオーディションの時は少し粗削りに見えたんですよね。 だから1年は練習した方がいいと軽く考えてしまいました。 完全な失敗でした。本当に私の見込み違いで申し訳ありません」と桐生さん。 「イヤイヤ、俺の見込み違いだよ。 颯太さんがプッシュするかもしれないことを考えていなかった。 颯太さんは立花家の長男だから、15歳で音楽事務所に入った時も、 最初から特別扱いで芸能界に入った人なんだ。 だから、下積みの世界を知らない。 でも今、吉沢君が颯太さんのMVにチラッとでも出演するなら、 おそらくステラビート達の嫉妬ややっかみが爆発するよ」と俺。 「もしかしたら吉沢君は足を引っかけられるか、罵倒されるか…… どっちにしろ潰れますよ」と桐生さん。 「そうだよ。まだ入所して1か月しか経ってないのに、もうデビューだもん。 こんなことは初めてだよ。 最初からもっと才能に気が付いていれば、別メニューで練習させたのに……。 そしたらステラの面々もやきもちを妬くことはなかったし、同じ舞台に出せたのになあ……。 全くやばいよ。事務所始まって以来の大失敗だよねえ。 ああ、双方に悪いことをした……」と俺。 最悪の気分だ。俺が悪かったんだよな。 今更後悔しても手遅れなのは分かっていた。 「とにかく、ステラビートで練習させたこと自体が間違いだったので、今更手遅れですよ。 ではこうしましょう。月曜日の朝一で本人に話して隔離しましょう。 レジデンスも引っ越しです。 今日中に新しい住まいを浅田の建設部に探してもらいます。 コンドミニアムならいいでしょう。 そしてマネージャーは知り合いの佐々木君でいいですか? 至急、佐々木君を呼んで個別契約をして、専属マネージャーになってもらいます。 車も黒のバンを専用にしましょうか?」と桐生さん。 「うん、そうだね、助かるよ。 後はこれから練習できるスタジオと教えてくれるトレーナーだね。 これも探してもらえますか?」 「はい、承知しました。ではすぐ取りかかります」 「お願いします……俺は落ち込むよ。こんな失態。 颯太さんが一番正解だったんだね。 アーティストとしての耳と感覚は本当にすごいよ。参った」と俺。 「本当ですね。私も失敗しましたよ」 そして落ち込みながらも、バタバタと準備に励んだ。 うちのスタッフ達にも告白しないといけない。 情報を共有しないとバレる。 ステラとは接触禁止にしよう。 口裏を合わせないと、また大変なことになる。 ああ、なんて双方に悪いことをしてしまっただろう……。

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