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第15話 達也サイド<新しい住まい>

 佐々木さんが戻ってきて、運転席に座った。 「お待たせしました。では行きましょう」 車は静かに発進し、渋谷方面へ向かった。 窓の外の景色がどんどん流れていく。 俺の人生も、同じように大きく変わっていくんだろうか。 着いたのは、恵比寿らしいお洒落な街並み。 雑居ビルが立ち並ぶ中に、ひっそりとしたマンションがあった。 「ここが君の新しい住まいだよ。オートロックの番号はこれ。開け方はこう」 番号を押すと、静かに扉が開いた。 荷物を台車に移して12階へ。 エレベーターの鏡に映る自分の顔が、ひどく強張っているのが分かった。 「ここだよ」 佐々木さんがドアを開けてくれた。中に入ると、思わず息をのむ。 前のレジデンスより2倍は広い。 1DKのリビングキッチンは、俺一人には十分すぎるほどだった。 「うわ……広いですね。ありがとうございます」 「今日から君は“プロ”として扱われる。だから先に注意事項を済ませよう」 佐々木さんの声が、急に現実を突きつけてくる。 「まず、今日は荷物を片付けて周辺を散策し、環境に慣れておくこと。 コンビニ、駅、スーパー……生活に必要な場所は一通り把握して。 このマンションは寮だから費用は一切かからないし、給料も今のまま支給される」 「はい」 「そして──ここからが大事だ」 佐々木さんの声が、一段低くなった。 「ステラビートとは接触禁止。理由は分かるね?」 「ええと……」 「君は入所1か月でデビューする“異例の存在”だ。 ステラは何年も努力しているのに、まだ突出したメンバーはいない。 もし君のデビューが知られたら──嫉妬、やっかみ、嫌がらせ……すべてが君に向かうよ」 喉がひりついた。 「最悪、怪我をさせられるかもしれない。階段から突き落とされるとかね。 まあ例えだが、芸能界はそういう世界だよ」 背筋が凍る。 「だから接触禁止。連絡も一切禁止だ。メールが来ても無視すること」 「……はい」 「それと女性との交際も禁止。写真を撮られたら終わりだ。 スキャンダルが出たら、事務所は君を守れない。契約解除もあり得るからね」 「分かりました」 「他の友人とのメールは、安否確認程度ならいい。 だが今の状況は誰にも言わないこと。 家族にも内緒。仕事の話は厳禁だ、いいですね?」 「承知しました」 「明日は10時からレッスン。30分前に迎えに来る。 外出したい時は必ず事前に報告すること。勝手に出歩かないように」 「はい」 「何か質問は?」 「あの……颯太さんにお礼のメールをしたいんですが……」 「それは少し待って。近いうちに会うから、その時に直接言えばいい」 「……はい」 佐々木さんは帰っていった。ドアが閉まると、部屋が急に静まり返る。 ふう、と深く息を吐いた。 ベッド、テーブル、チェスト、姿見。 机、椅子、テレビ、電子レンジ、トースター、電気ポット。 浴室とトイレは別で、洗濯機まである。 俺には十分すぎる環境だった。 キッチンの扉を開けると、生活に必要な道具が一通り揃っている。 バルコニーに出ると、隣と前のビルが迫っていて、景色はほとんど見えなかった。 「……12階なのに、まだ周りの方が高いなんて」 思わず笑いが漏れる。恵比寿でこの広さ、しかも12階。 普通に借りたら数十万はするだろう。 荷物を片付け、必要な買い物をリストアップした。 Wi-Fiを繋ぎ、地図で周辺を確認する。 コンビニまで徒歩3分。小さなスーパーが5分。 病院、郵便局、銀行……全部ある。 恵比寿駅までは徒歩10分。 便利だけど、ステラのメンバーと遭遇したら困るから、あまり出歩かない方がいい。 たった1か月で、俺は颯太さんのおかげで“出世”したのか。 うれしい。でも──怖い。 クビにならないように、頑張らないと。 こういう時、報告できる親がいたらどんなに良かっただろう。 俺は心の中でそっと両親に語りかけた。 (お父さん、お母さん。俺、デビューすることになったよ)

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