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第16話 達也サイド<外部レッスン>
朝9時30分、佐々木さんがマンションの前に車で迎えに来てくれた。
俺はタオルやシューズ、着替えをカバンに詰め込み、助手席に乗り込む。
「今日はこれから、今後通常使用していくスタジオへ向かいます。
スタジオ、そしてダンスとボーカルのトレーナーとは事務所が契約しました。
初めてなので紹介がてら、今日はトレーナーによるテストを行います。
ありのままでいいので頑張ってください」
「はい、分かりました」
ああ……テストか、俺は自信がない。
車はほどなくして、渋谷にある雑居ビルの前へ着いた。
「ここの2階にダンスとボーカルのレッスン場があります」
「はい」
緊張しすぎて、道中の景色はまるで記憶にない。
スタジオに入ると、大きなフロアの片面がすべて鏡張りになっていた。
中にいた4、5人の男女が、声を揃えて挨拶をする。
「おはようございます」
「ではご紹介します。こちらがアニメプラスの新人、吉沢達也です」と佐々木さん。
「こちらがボーカルトレーナーの三角洋子先生。隣がダンストレーナーの広野光成先生です」
「初めまして、吉沢達也です。どうぞよろしくお願いします」
俺は深くお辞儀をした。
「では、私は後ろに控えていますので。よろしく」
佐々木さんは水のペットボトルを俺に渡し、荷物を抱えて入り口近くの椅子に座った。
「じゃあ、先にボーカルのテストをしましょうか。
ピアノに合わせて音域を調べます。アーと声を出してください」
ピアノの前に座っている人がピアニストらしい。
言われるまま、低い声から高い声まで順に出していく。
「うーん、結構広いですね。では何か一曲歌ってみてください」
俺はピアニストに楽譜を渡した。
この前のレッスン、初見で歌ったあの素敵な曲──。
心を込めて歌い上げる。
曲が終わると、フロアにパチパチと拍手が響いた。
え……?
拍手をもらえるなんて思っていなかった。
「達也君、今の曲はどういう曲なの?」と三角先生が尋ねる。
「先日、アニメプラスのボーカルレッスンで、皆がもらった曲です」
「へえ……佐々木さん、これすごく素敵な曲じゃないですか。
どこかに出す曲なんですか?」
「あ、すみません。すぐ事務所に確認します」
楽譜を預け、佐々木さんは電話をかけた。
少しして戻ってきた彼の表情は、先ほどまでとは少し違って見えた。
「お待たせしました。これは出来たばかりの曲で、
作曲はアニメプラスのヒットメーカー森戸由貴さん、
作詞は木内真亜子さんだそうです。
まだ誰にも渡していないそうですが、
この前のレッスンで試しにステラビートに歌わせた経緯があります。
達也もその中にいたので、歌えたのでしょう」
トレーナー同士が顔を見合わせ、ニコッと笑う。
「あのね、まだ誰のものにも決まっていないなら、
ちょっと事務所の人と電話を代わってもらえますか?」と三角先生が提案した。
佐々木さんが電話をかけ直し、桐生社長に繋ぐ。
先生は壁際の小さな個室に入って話をし始めた。
なんだか不安になってきた。
俺、何かまずいことしたのかな……?
やがて三角先生が戻ってきた。
「今、桐生社長と話して、この曲を達也君のデビュー曲にすることに決定しました。
これに合わせて、歌とダンスの基本練習と振りをこれからやっていきます。いいですね?」
「あ、はい……もちろんです。本当にうれしいです。どうぞよろしくお願いします!」
俺は最敬礼をした。
心が舞い上がって、どうにかなりそうだった。
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