18 / 53

第18話 ゲンサイド<ステラビートの衝撃>

 ダンストレーナーから、達也が体調不良でしばらく休むと聞いた。 「はい。分かりました」 内心あきれた。あれくらいの練習で弱るか? 三日もすれば戻るかと思っていた。 だが来ない……おかしい。 普通、三日も休んだらトレーナーが「もうすぐ出るよ」とか、 「熱は下がったらしい」とか、「入院した」とか言うはずだ。 それなのに、トレーナーは平然としている。 この事態を当然のことと言わんばかりだ。 練習が終わるとトレーナーが帰った。 「みんな、ちょっと集まれ」 皆がサッと集まった。 「誰か、達也の部屋を知ってるか?」 「はい、俺知ってます」リョウが名乗り出た。 「よし、ちょっと様子を見て来い……、 ああ、いや、レジデンスまで三十分かかるから、フロントに電話して状況を聞いてみろ」 「はい、分かりました」 リョウはすぐその場で電話をかけた。 そして話をして、すぐ電話を切ると、呆然と立ち尽くしていた。 「早く言え! なんと言ってるんだ?」 「……それが、もう部屋にいないそうです。チェックアウトしたと……」 思わず座り込んだ。 愕然とした……。 この衝撃をどう受け入れていいのか分からなかった。 「あのう、達也は逃げ帰ったんですかね?」 リョウの問いに、俺は苛立ちを隠さず言い放った。 「お前はバカか! 考えてみろ。 わざわざ一か月で逃げる必要なんてあるかよ」 リョウはシュンと俯いた。 他のやつはどう思ったんだろう? 「おい、あいつの最初のオーディションに行ったやつ、手を挙げろ」 六人が手を挙げた。 「あの時、達也を見てどう思った? 一人ずつ正直に言ってみろ」 シュン「嫌な奴が来たと思いました。 俺たちはプロとして何年も積み上げてきたのに、初回から最後まで一緒に踊り切るなんて……。 どっかのプロから引き抜かれたら踊れるだろうけど、素人だからオーディションをしたんですよね? 歌もダンスも……俺たちにないものを持っていて、適わないと思いました」 タク「ダンスは素人っぽかったけど、最後までの踊り切り方は異常でした。 あの夜は悔しくてモヤモヤしました」 ナオ「ダンスは俺の方が上だと思いたかった。 でも、あの声は天性のものですよ。逆立ちしたって敵わない。すげえ奴が来たと思いました」 ショータ「皆と同じです。ただ、ミツワの広報や立花先生まで来ていて、バックの大きさに圧倒されました。 颯太さんのような有名歌手に、紹介してもらえるような奴なのか、何者なんだと」 ゴウ「練習が遅れてたのに、一晩でスマホ録画で完コピして合わせたのは衝撃でした。 譜面も初見で完璧。最後のアレ、正直デビュー曲レベルでしたよね? 悔しくて誰にも言わなかったけど、完敗でした」 リョウ「……負けたくなかったんです。 俺だって努力して今の地位があるのに、あいつは最初から完成されていた。 納得いかなかった」 俺は深く溜息をつき、皆を見渡した。 「……ああ、同感だ。俺も同じことを思った。 あのポテンシャルと根性、声の天賦の才。認めざるを得なかった」 俺は少し間を置いて、確信を持って告げた。 「一か月で姿を消したということは、恐らくどこかで隔離され、別メニューで仕上げられているんだ。 颯太さんも来ていたことだし、デビューが確定したんだろう」 皆が一斉にどよめいた。 「驚くよな。……最初からデビューが決まっていたなら、俺たちと競わせる必要なんてなかったはずだ。 恐らく颯太さん側から急なオファーがあって、慌てて隠したんだろうよ」 「なら、なぜわざわざ俺たちと?」ナオが問う。 「事務所に上手く使われたんだよ。 俺たちの競争心を煽って、あいつを鍛えようとしたんだろうな」 俺は苦々しく笑った。 「じゃあ、俺たちはこれからどうすれば……」とショータが不安げに呟く。 「悔しいのは皆同じだ。だがな、事務所は俺たちが邪魔をするとでも思っているらしい。 だから皆に命じる。今度どこかで会ったら、意地でも『頑張れ』と声をかけてやれ」 俺は皆の顔を一人ずつ見据えた。 「余計なことは言うな。絶対に手を出すな。 それが俺たちの、せめてもの意地だ。いいな!」 「はい、分かりました!」 10人の声が、力強く揃った。

ともだちにシェアしよう!