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第19話 達也サイド<甘いもの>
昨日の舞台の喜びをかみしめた翌日から、俺の日常は一変した──というか、ベルトコンベアに乗ったまま流されているような気分だった。
佐々木さんが8時50分に迎えに来てくれて、青山のスタジオへ向かう。
まずは美容院でヘアカット。それからエステの施術。
されるがままだから、何をされているのかさっぱり分からない。
危うく眠りそうになったが、それで約90分。
次はスタイリストが山のような衣装を持ってきて、フィッティングが始まった。
俺は七五三の子供のように着せ替えられる。
その後は、カメラマンやアシスタントが数人いるスタジオで撮影だ。
いろんな角度、いろんな表情、いろんなポーズ。
これまでの人生で、こんなに写真を撮られたことはなかった。
途中で佐々木さんが水を持ってきてくれた。
「佐々木さん、これは何の写真なんですか?」
小声で聞くと、
「これは最初の“せんざい写真”だよ」
……せんざい?
泡でもかけられるのかと思ったが、あとで聞いたら“宣伝用材料写真”のことだった。
……ああ、泡まみれにならなくて良かった。ホッとした。
すると今度はカメラマンが佐々木さんに、
「アーシャはどれくらい必要ですか?」と聞いていた。
アーシャ?
誰だ? 新しいスタッフの名前かと思った。
その後も何度も着替えさせられ、風を浴びたりライトを浴びたりしながら、写真と動画をひたすら撮られた。
……俺、こんなんでいいのかな。自信なんて全然なかった。
終わったのは14時を過ぎていた。
「今日は午後も予定があるから、どこかで昼食を食べましょう。事務所から出ますから」
「はい、分かりました」
連れていかれたのは小さな中華料理屋。
俺は五目焼きそばを頼んだ。
久しぶりだ……うまそうだ。
佐々木さんはラーメンをすすっている。
「あのう、アーシャって誰ですか?」
ぷっと笑われた。
「それは“アーティスト写真”の略だよ。楽曲に使ったりする、おしゃれな写真のこと」
「あ、そうなんですね」
自分でもくすくす笑ってしまう。
佐々木さんも笑っていた。
食べ終わると「歯磨きしてきて」と言われ、済ませると次はモデル事務所へ。
そこには練習用のスタジオがあり、
「ここでウォーキングやポーズの練習を2時間してください。17時過ぎに迎えに来ます」
「はい、わかりました」
長身の男女が、ダンスのようなタイツ姿で練習している。
俺も急いでラフな服に着替えた。そこへトレーナーらしい女性が近づいてくる。
長い髪をポニーテールにし、茶色のヘアバンド。40代くらいだろうか。
「君が吉沢君? 私はトレーナーのリリーです」
「はい、初めまして。どうぞよろしくお願いします」
深く頭を下げた。
「ふ~ん」
全身を舐め回すように見られた。
「うん、わかった。じゃあ先にウォーキングね」
基本を教わり、あとはひたすら端から端まで歩く。これだけで1時間。
「はい、大分マシかな? 次はポーズね」
シャッター音に合わせて、次々とポーズを変える練習を1時間。
17時になると、リリーさんが「はい、今日はここまで。お疲れさまでした」と声をかけてくれた。
御礼を言って着替え、水を飲みながら駐車場で佐々木さんを待った。
10分ほどで車が来る。
「はい、お疲れさまでした。今日はこれで終わりです。
これは今週のスケジュールです。一応渡しておきますね」
「はい、ありがとうございます」
途中でスーパーに寄ってもらい、マンションへ。
俺は甘いものを5個くらい、かごに入れてしまった。
帰宅してシャワーを浴び、甘いものを食べて歯磨き。
そしてベッドに寝転がった。
今日は忙しかったな──そう思ったら、そのまま眠っていた。
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