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第21話 夏輝サイド<ビッグニュース>

 今日もアニメプラスは電話の問い合わせが多いな~と眺めていた。 あれ?桐生さんが電話を受けながらも、俺に”来て!”って合図をしている。 渋々そばに歩み寄った。 「はい、はい、承知しました。すぐ本人を連れて伺います」 電話を切ると、桐生さんは俺をニヤニヤと見つめた。 「なあに? いい話?」 「この前の達也の舞台を見に来たTV関係者がいたじゃないですか。 それで達也を気に入って、舞台の録画をCMのメーカーさんに見せたんですって。 そしたら向こうの副社長さんがすごく気に入ってくださったそうで……、ぜひ今度の新車の高級車CMに出てほしいとおっしゃってるそうです」 「……マジ? だってさあ、あの曲ってかなり暗かったでしょう? それでもいいと言ってるの?」 「ええ、大歓迎だそうですよ。何せ日本を代表する有名な自動車メーカーですから」 「へえ~、信じられない!そうなんだ。で、今から行くの?」 「はい、1時間半後に伺うことになりました。 達也は今レッスン中でしょうから、急いで着替えさせないといけませんね。連絡しておきます」 桐生さんはすぐさま佐々木マネージャーへ電話を掛けた。 その後、俺たちは達也と佐々木マネージャーを連れ、品川にある本社ビルに向かった。 着くと、見上げるような大きなタワービルの19階。 案内されたのは、窓から遠くに海を臨む重厚な会議室だった。 俺たちが緊張して待っていると、数名が部屋に入ってきた。 「お待たせしました。わざわざお呼びたてして申し訳ありません」 そう声を掛けてくれたのは、高身長で、若さと落ち着きを兼ね備えた男性だった。 「初めまして。アニメプラス理事の浅田夏輝と申します」 「存じていますよ。素敵な方ですね」 男性は優雅に微笑み、続けた。 「副社長の松永透真(とうま)と申します。どうぞよろしくお願いします」 その後、向こうのスタッフとこちらのスタッフがそれぞれ紹介し合う。 「吉沢達也君か……。間近で見ると、なかなかいい青年ですね」 達也は緊張のあまり、俯いてしまった。 「この度は車のCMの件で伺ったのですが、 まだデビュー前でも宜しいのでしょうか?」 桐生さんが尋ねると、松永副社長は穏やかな口調で応えた。 「その方が新鮮でいい。……曲がいいんですよね。 暗闇から光へ向かうような、あのシャープで都会的な高級車のイメージに完璧に合うと思うんです。 CMにあの曲を使うことは可能ですか?」 「もちろんです。喜んで」 「ちなみに、その新車の名前を伺っても?」俺が尋ねると、彼は少しだけ口角を上げた。 「『レクタス』と言います。CMには黒の車両を使用します。 前回のモデルより、更にパワーアップさせて洗練させましたので」 「ほう……」思わず全員で感嘆の声を上げてしまった。 誰もが知る最高級車だ。 それを、まだデビューもしていない無名の新人に託すなんて。 そこで、松永副社長が達也をじっと見つめた。 「吉沢君。あの歌の暗さに、深く惹かれましたよ。 ……君自身も、何か抱えているのかな?」 達也は視線を泳がせたが、俺と目が合うと小さく頷いた。 「……はい。自分のいろんな思い出が、曲に入り込んでしまって」 「ふうん、そうなんだね」 松永副社長は穏やかに微笑み、達也を見つめた。 そこで広報の部長の深山さんが口を開いた。 「では、お話は成立ということでよろしいでしょうか?」 「はい、結構です」と桐生さん。 「あのう、事前に申し上げたいことがあるのですが、達也は運転免許を持っていません。 事務所としてはデビューさせる段階なので、運転はさせたくないのです。 それでもよろしいのかどうかなんですが、本当に申し訳ないのですが……」と俺が伝えた。 向こうのスタッフが、「え?」とばかりに顔を見合わせていた。 しかし、松永副社長は少しだけ下を向いて、くすりと笑った。 「良いですよ。それならそれで、こちらも方法を考えますから。心配ご無用です」 「本当に申し訳ありません」と達也が頭を下げた。 「オファーがOKであれば、あとは広告代理店の方から連絡があると思いますので、よろしくお願いします」 「はい、こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」 皆で深く頭を下げた。 帰りの車中、達也が不安げに聞いて来た。 「あのう……俺は、運転免許は取った方がいいのでしょうか?」 「いや、今の段階ではしなくていいよ。 事故でも起こしたらすべてがパーになる。 そんな危険なことはさせられないから、心配しなくていいよ」 とりあえず、あとは広告代理店がどう動いてくるか、だな。

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