23 / 53

第23話 夏輝サイド<CMロケとステラに光を!>

CMのロケは俺にとって初めてのことだった。 現場の空気感、スタッフの動き、すべてが勉強になるはずだ。 天候の兼ね合いを見て、最初の二日間は曇りだったこともあり、郊外の大きな撮影スタジオでロケを行うことになった。 黒いピカピカのレクタスの新車が、工場から搬入されている。 なんというスタッフの数だろう。 ざっと見回すだけでも60人以上はいる。 達也は佐々木マネージャーのそばで、 何が始まるのかと緊張でガチガチになっていた。 メイクや衣装はすべて整っている。 製作ディレクターが台の上から指示を飛ばす。 カメラを載せたクレーンが自由自在に動き回り、 大きな風を送る巨大な扇風機まで回っている。 たった一つのCMにこれだけの人と予算を動かすのか。 プロの現場のスケールに、圧倒されずにはいられなかった。 撮影が始まると、達也はディレクターの指示に従い、車と一緒にあらゆるアングルで撮られていく。 その時、背後からぽんと肩を叩かれた。 驚いて振り向くと、そこには微笑みを浮かべた副社長がいた。 「お疲れ様です」 副社長は控えめにそう挨拶をした。 「……なんだか大変な作業になっていますね。 達也は大丈夫でしょうか? 初めてなんですよね」 気弱な俺の言葉に、彼は短く言い切った。 「誰でも最初はありますよ。でも彼は、やり遂げます」 何の根拠があって? 不思議に思いつつも、副社長が達也に向ける眼差しが、あまりに温かいことに気がついた。 なんだろう? 俺よりもずっと、達也のことを深く見ている気がする。 そう感じているうちに、 彼はまたそっとその場から姿を消した。 撮影は約一週間で幕を閉じた。 その間、副社長からは何度もスタッフへの差し入れが届いた。 後日、礼状を出す手配をしておく。 達也には二日間の休みを与えた。 緊張しっぱなしだったようだが、最後まで見事にやり遂げた。 今頃、泥のように眠っているだろうか。 一方、事務所では朝一のミーティングが開かれていた。 「まず、ステラの今後から始めましょうか」 桐生さんの号令に、いつもは控えめなメグちゃんが珍しく手を挙げた。 「あの……ステラは最近あまり外に出られてなくて、勿体ないと思うんです。 問い合わせでも『次の予定はどこですか?』って聞かれることが多くて。 もっと出演機会を増やしてあげたいんです」 メグちゃんは続ける。 「それと……ファンの実感が湧かないなら、一度ファンミーティングをしたらどうでしょうか? きっと熱烈なファンがいるはずだし、皆も元気になると思うんです」 俺は苦笑した。 「そうだよね……やっぱり元気がないように見える?」 「そりゃそうですよ。たった一か月で達也さんがデビューして、皆、どれだけ傷ついたか。 自信を失くしているので、イベントでもいいから、ライトを浴びる機会を作ってあげてほしいんです」 俺は隣に座る桐生さんを見た。 「そうだね。数年頑張ってきた彼らだから、 思い切って新しいことを始めようか」 桐生さんの言葉に、メグちゃんが再び手を挙げた。 「あの、他にも考えがあるんです。 今のステラはボーカルのバランスが少し弱い気がします。 誰か『歌姫』を一人追加したらどうでしょうか? それだけでステージの映え方が劇的に変わるはずです。 ダンスはあれだけ凄いんだから、 歌の核になる人を一人入れれば完成すると思うんです!」 その直球の意見に、周囲がくすくすと笑った。 「お手上げだ。メグちゃん、君は立派な戦略家だよ」と藤堂さん。 「全く同感だ。歌姫一人でグループが完成するかもしれない」と村瀬さん。 「メグちゃんの案に賛成! という人は挙手!」という桐生さんの合図で、全員の手が挙がった。 「私、まだ案があるんです!」 メグちゃんは止まらない。 「その歌姫を、ネットで公募したらどうでしょう? コンテストを開催して、賞金を100万ほど出して。 それをTV局に売り込むんです。 最初から密着取材に入ってもらえば、全員が有名になれる。 最高の宣伝になると思いませんか?」 会議室が拍手で包まれた。 「参ったねえ」と藤堂さんが笑う。 桐生さんも楽しげに頭をかいていた。 「では、早速企画案を練ってTV局へ持ち込もう。 番組編成に入るには最低でも半年は必要だ。 もし密着が叶うなら、審査員にはステラビートのメンバーにも加わってもらおう」 また笑顔と拍手が送られた。

ともだちにシェアしよう!