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第28話 達也サイド<プロポーズ>
「着いたよ」とやさしく肩を叩かれた。
目を開けると、もう浅田タワーの前だった。
何時だろう?
慌てて携帯を探そうとバッグに手を伸ばしたら、
「あれ?」
「あのね。家に帰ったら見て。
俺たち専用の携帯をバッグに入れておいたから、家にいる時に見てね」
え? ぽーっと彼の目を見つめた。
「良いんですか? そんなことまでしてもらって、俺、どうしよう……」
「悩まなくていいよ。声を聞きたくなったら電話して。夜8時過ぎだったら、うちに居るから」
頷いた。
「じゃあ、マネージャーに電話する? でも会社、終わってるんじゃないの?」
俺は自分の携帯を出して電話をかけた。
すぐに出てくれた。
「あ、今浅田タワーに着きました」
「すぐ下に降ります」
「はい、分かりました」
「今降りて来るそうです」
「うん。分かった。じゃあ、一言挨拶でもしておくよ」
二人で外に出て待っていると、入り口から3人が出てきた。
マネージャーと夏さん、そして桐生社長だ。
「遅くまですみません。達也が大変お世話になりました」
夏さんが副社長に声をかけてくれた。
「達也、大丈夫か?」とマネージャーが駆け寄ってくる。
「ちょっとね、気分が悪くなったようで、しばらく動けなかったんです。
それで医務室に運んで、産業医に診てもらいました。少し休めば大丈夫とのことでした」
副社長が、理由をうまくごまかして説明してくれた。
「じゃあ、佐々木さん。家に連れて帰ってもらえますか?」と夏さん。
「はい、分かりました。松永副社長、本当にお世話になりました。
ありがとうございました」と佐々木マネージャー。
俺は副社長に会釈をして、マネージャーに連れられて車に乗った。
その後のことは、あまり覚えていない。
俺はぼんやりと車に揺られていた。
「夕飯は食べたの?」
「あ、忘れてました。でもあまり食べたくないです。休みたくて……」
「うん、わかった。家に何かあるの? 途中で買っておこうか?」
「いえ、大丈夫です。冷凍しているものもあるし、パンもあるので」
そして部屋まで送ってくれた。
「具合が悪くなったら、すぐ電話するんだよ。明日は休みにしてあるからね」
「はい、ありがとうございます。ご心配をおかけしました」
___そして一人になった。
バッグの中の電話を確かめた。
名刺が挟んであって、携帯の番号が書いてあった。
スマホを開くとラインが入っていた。
宛先は副社長だけだった。
「ありがとうございました。今帰宅しました」
そうメールした。するとすぐ返信があった。
「たった今別れたばかりなのに、もう会いたくなってる。どうしよう?」
ええ? ……どうしようって、俺こそどうしたらいいの?
___俺も会いたい……。
そう書いてポチッと送ってしまった。
ああ、どうしよう。
俺はなんてことをしたんだろう?
何を考えているんだ?
もう取り返しがつかない……そう思って泣いていた。
すると、またメールが来た。
「多分、今、下にいる」
え? なんで?
半信半疑で下に降りてみた。
そしたら彼が車から降りてきた。
「あ、どうしてここが分かったんですか?」
「ラインに位置情報が入っている。
少しの間、一緒にいてもいいかな?」
「あ、はい、どうぞ」
俺は部屋に彼を入れた。
ドアを閉めたら、すぐに抱きしめられた。
思わず目をつぶった。
___ずっとこのままでいたい……。
でも違うことを口走った。
「こんなことして、俺、困る……」
「うん、わかってる。でも止まらないんだ」
「少し話したいことがあるんだ、いいかな?」
「はい、どうぞ」
部屋の椅子に座ってもらった。
「俺には親が決めた婚約者がいるんだ。
銀行の頭取の娘で、オメガだ。だから政略結婚だね。
でも俺は承諾していない。
ずっと拒絶したままになっている。
でも達也に会ったから、俺はもう決めたんだ。
達也、俺を待っていてほしい。
きっと最初から出会う運命だったんだと思う。
だって一目で達也のことが分かったから。
達也はどう思う? 聞かせて」
「ええと、急なことで分からないけど……、匂いがすごく落ち着くんです。
やさしい匂いで、気持ちが安らぐ。
それが不思議なんだけど、そんな答えでいいですか?
だってまだ会ったばかりで、何も知らないし……。
それに、俺は親もいないから、
多分、あなたの家からは受け入れてもらえないと思う。
だから一緒になれなくてもいいです。
時々会えたら嬉しいと思うから。
でもどうしよう……もう契約違反になっちゃった」
「達也がはっきり決めてくれたら、
事務所には俺から言うから大丈夫だ。
ちゃんと認めてもらうから」
「そんなことが出来るの?」
「たぶんできると思う。
ただ、すぐには難しいかもしれないけれど、交際することはちゃんと伝えるよ。
でも誰にも言わないようにした方が、いいかもしれない。
もしかしたら父の方か、銀行の方から何らかの邪魔が入るかもしれないんだ。
ただね、事務所がそれに負けずに対応してくれるかどうかは、分からないけど」
「はい、分かりました。
いざとなったら、ミツワの颯太さんが面倒を見てくれるって言ってくれたから、
事務所を離れることがあっても、ミツワの方で何かやってくれると思う」
「ふーん、そうなんだね。ミツワの颯太さんなら心強いね。
とにかく、俺を信じてくれる?」
「はい、信じます」
「うん、ありがとう。じゃあ、今夜はこれで失礼するね」
そして彼は帰っていった。
俺は送らなかった。
二人でいるところを写真に撮られると彼に迷惑をかけるし、
俺も大変なことになる。
昼間のヘリの爆音を思い出した……。
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