29 / 53

第29話 夏輝サイド<爆弾>1

  昨日、達也が体調を崩したことで、今日は休ませている。 「達也はCMの撮影で疲れたんでしょうか?」と桐生さん。 「身体自体はダンスで鍛えてるから、 体力はあるはずなんだけど……精神的なものじゃないの? それともヘリが怖かったのかな?」と俺。 「あ、それあるかも」 クスリと二人で笑った。 桐生さんはパソコンに向かっていた。 「あれ? 理事、副社長からメールが来てますよ」 「ええ~、何事だよ。もうこわいよ」 メールを転送してもらうと、 『個人的なことで相談があるので、時間をいただけないか?』だって。 ……どういうことだ? とりあえずOKの返事をして、いつでもどうぞと伝えた。 すると、今日の17時に来ることになった。 桐生さんと目が合った。 「ちょっと理事室に行きましょうか?」 「はい、承知しました」 そして部屋に入るなり、 「やっぱり俺の勘が当たったようです」と桐生さん。 「そうだね。俺もなんか怪しいなあ~と思ったんだよなあ……」 「どうします?」 「どうするってさ、どうにもできないでしょう?」 「いや、対外的なことですよ。向こうがスキャンダルになりませんか?」と桐生さん。 「いや、こっちだってスキャンダルというか、まだデビューもしてないし。 ああ~問題はCMだよ。下手するとお蔵入りになるよ。 それに賠償金だ。でも相手が依頼元だとねえ~。どうなるんだろう?」と俺。 「わ~どうしましょう。困りましたねえ。 先に弁護士に相談しておきましょうか?」と桐生さん。 「うん、そうするしかないかなあ。もうテレビ枠に組み込んでるしねえ……」 「達也抜きのCMって編集で出来ないですかね?」と桐生さん。 「ああ、それねえ。できなくはないと思う。 でもさ、向こうから言い出したなら、なんとかなるんじゃないの?」と俺。 「イヤイヤ、代理店の契約にありましたよね。 騒がすこと自体がダメなんですよ」と桐生さん。 「だってさ、本人は依頼主なんだから、 その辺は何とかなるんじゃないの?」と俺。 駄目だ、堂々巡りだ。 とりあえず17時を待つことにした。 「達也を呼んでおく?」と俺。 「いや、呼んだところで、彼は無力ですよ。 副社長が自ら来るなら、もう合意の上だと思った方がいいと思いますよ」と桐生さん。 「はあ~、だねえ……」 そして17時。 副社長と代理店の柳瀬部長が、神妙な面持ちでやってきた。 俺は桐生さんと目を合わせた。 とりあえず、二人を桐生さんの社長室に案内した。 彼は苦渋と決意が混ざった、そんな切ない表情をしていた。 「わざわざお時間をいただいて申し訳ありません。 多分、お察しかとは思いますが、その通りです」と副社長。 視線を落とし、頭を下げた彼。 「まだ、何回も会ってないですよね? その辺をもっと詳しくお話いただけますか? 事情が分からないと何もできないです」と俺。 責めるわけではないが、大人が達也を翻弄していないか? 達也はまだ19歳だ。 初めてのCM撮影がやっと終わったばかりなのに……。 俺の腹正しい気持ちに変わりはない。

ともだちにシェアしよう!