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第30話 夏輝サイド<爆弾>2
彼は達也との経緯を話し始めた。
「そうですね、まず舞台の動画を初めて見た時に、直感で分かりました。
それでどうしても会いたくなって、CMに起用することにしたんです。
もちろん、歌も良かったし、車のイメージにも合う。これも事実です。
でも実際に初めて会った時に、彼の匂いですぐに運命だと気づきました。
出会うべくして出会ったんだと。
でも、彼は私の匂いには気がついていなかったし、
緊張のあまり、私を見られないような感じでした。
ヘリで連れ出したのは、工場で噂を立てて既成事実を作りたかったからです。
それに父にも話しました。
会社の跡継ぎは私一人なのですが、強敵の叔父がいるんです。
いつも狙っていて、今回の件は真っ先に足を引っ張られそうです。
何よりも、勝手に婚約者にされた彼女は、取引先の銀行の頭取の娘でオメガです。
これも大きな取引が絡んでいるので、困難な相手です。
結局、父からは『自分の力で何とかしろ』と言われました。
反対はされませんでした。
恐らく実現するのは無理だろうと、考えたんだと思います。
昨日、彼の気持ちを確かめました。
『会ったばかりで分からないけど、匂いが優しくて安心できる』と言ってくれました。
それで待っていてくれるように頼んだのです。彼との接触はそれだけです」
副社長がふうっと息をついて、桐生さんの顔を見た。
桐生さんは苦笑していた。
「発言してもいいですか?」と柳瀬部長。
「今朝、副社長から青天の霹靂 のような話を伺いまして、
こっちが動転しましたよ。まるで自分が犯した恋愛のような気がしました」
ここで俺たちは思わずくすくすと笑ってしまった。
副社長も苦笑している。
「それで、弁護士にもアドバイスをいただいて、考えられる限りの手続きをするそうです。
賠償金くらいはへっちゃら……とは言いませんでしたが、それくらいの覚悟のようですよ」
柳瀬部長、おもしろいな。
また笑ってしまった。
「とにかく、最大限のことをします。達也君を全力で守りたいのです」と副社長。
そこで渋い表情をしていた桐生さんが口を開いた。
「あのう、それは分かりましたが、ちょっと話は最初に戻るのですが、
そのお相手の女性とは会ったことがあるんですか?」と桐生さん。
「あ……いえ、ないです。
会うということは見合いをするということですよね?
それは承諾を前提としているわけですから、それだけは避けたいんです」と副社長。
「それはどうにでもなるんじゃないですか?
例えばですね。密かに待ち合わせをして、
実際にどうなのか聞いてみるのはどうでしょう。
もしかしたら、相手だって気が進まない政略結婚かもしれないじゃないですか。
案外、他に好きな人がいるかもしれませんよ。
そうすれば円満に解決できますよね」と桐生さん。偉い!
ちょっと副社長が眉を寄せた。
「……あ、そういうことは考えなかったんですが、でもそうですよね。
聞いた方がいいのでしょうか?」と副社長が驚いていた。
「こうなったら、何が何でも彼女と話をつけた方がいいですよ。
実際の気持ちは聞かないと分かりません。
会ったこともない相手と結婚しろなんて、無茶な話だと思いますよ」と俺も言うさ。
「あ、待って!その前に彼女を少し調べてもらった方がいいですね。
だっていきなり会っても、本当のことを言えるわけないですよね?
彼女だって父親の手前、逆らえないのですから、本当の気持ちは言えないはずです」と桐生さん。
「ああ、なるほど。そうかもしれません」と俺。
「分かりました。至急、調べさせます」
「それとね、二週間から一カ月くらいは時間をかけて、
慎重に調べた方がいいですよ」と桐生さん。
「はい、承知しました。でもその間にCMが放映されますが、どうしましょうか?」
副社長が心配そうにしていた。
「そこは喜んで書類にサインをさせていただきますよ。
万が一ということもありますからね」と桐生さん。
転んでもただでは起きない桐生さん。
さっさとサインをしていた。
俺は口元を抑えて横を向いた。
「達也は才能豊かな、高いポテンシャルを持ったアーティストです。
恋愛くらいでは壊れないと信じています。
まだ十九歳だから先も長い。音楽は続けさせてやりたいです。
事務所としては最後まで面倒を見るつもりです」と俺。
ちょっとカッコいいことを言ってしまった。
副社長が照れくさそうに微笑んでくれた。
「ありがとうございます。ぜひ達也をよろしくお願いします」
ああ~悔しい……「達也」だって。
聞き捨てならん。
もう達也は彼のものなのか。
まだ十九歳なのに早すぎるぞー!
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