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第34話 桐生サイド<シブハチビジョン>
「副社長が興信所に頼んで、大掛かりに調べ始めたらしいよ」
理事からそう聞いて、俺は「大掛かり」という言葉に圧倒された。
調べる対象は叔父と婚約者の彼女、
そしてその父親である頭取まで及んでいるらしい。
徹底的にやるつもりなのだ。
そこまでして、達也が欲しいのか……。
アルファは運命のオメガだと、そんなに執着するものなのか?
「なんか分かるような気がしますね」とうっかり言ってしまい、
理事がちらっと俺の顔を見て含み笑いをした。
くそー、バレてるとは分かっていたが、今の視線、ヤダな。
でも俺の事情を察してか、俺と陽翔のホテルの部屋を寮として、隣同士にしてくれた。
だから感謝しかない。
陽翔は12階にある菜の花赤坂クリニック・健康診断科の医長だ。
高校時代からの恋人である彼と俺も、紆余曲折あり別れや復縁を繰り返してきた。
だからこそ、副社長が達也を恋しく思う気持ちは理解できる。
副社長からは、興信所の結果が少しずつ共有されていた。
叔父さんに対しては、社内でも前から怪しい噂が絶えないらしい。
副社長はコツコツと証拠を集めているそうだ。
そんなにこっちを信用して話していいのかと不安になる。
一方、婚約者の方は全く動きがないという。
家からあまり外に出ないらしい。
何をしているんだろう? ただのお嬢様なのか。
副社長は遡って中学時代から情報を集めさせているそうだ。
別荘の所在も特定済みで、軽井沢と葉山、さらには浜名湖にもあるらしい。
頭取という存在の派手さを改めて感じる。
そんなことを考えている間に、車のCMがテレビで解禁された。
パソコン画面とは迫力が違う。
渋谷スクランブル交差点のシブハチビジョンにも流れるというから、理事と一緒に見に行くことにした。
時間はちょうど12時。理事の車を交差点前で降り、5分前に待機する。
12時ちょうど、交差点の手前で画面を見上げた。
パーン、という派手な音で始まる。
「あ、テレビ用と違う!」
交差点を行き交う人々が、ちらりと視線を向ける。
その雑踏の中に、達也の歌声が流れた。
暗い映像と光を交互にまとい、新車のシャープなラインが浮かび上がる。
テレビとは全く違う演出に息を呑んだ。
交差点を渡らず、足を止めて見入る人たちもいる。
画面の中に、達也がクローズアップで出る。
今更ながらのイケメンぶりに、身内としても嬉しくなる。
代理店の話だと、30秒枠を12時から13時までに4回、
18時から19時までに4回流すそうだ。
毎回違うバージョンが出るという。
お金をかけただけのことはある。
「やっぱり、達也はイケメンですよね?」
理事も嬉しそうに頷いている。
歌も曲も良い。
これで売れないはずがない。
事務所では今頃、SNSのリサーチに追われているはずだ。
代理店も動いているだろう。
特にハッシュタグを拡散させ、ブームを作らなければ。
うちの在宅バイトのメンバーも頑張ってくれているはずだ。
理事と大満足でその場を後にした。
その時、事務所からメールが届いた。
達也のテレビ番組出演の話が来ているそうだ。
もちろんデビュー曲を披露する。
笑いが止まらないが、同時に急速に変わりゆく状況に、少しだけ不安も込み上げてきた。
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