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第39話 透真サイド<パニック>
「こちらは赤坂クリニックの北原春樹総院長です。
一緒に暮らしているのですが、達也の話をしたら、
トラウマが心配だから診てくれるそうです。それで一緒に来ました」
理事がそう紹介してくれた。
「ああ、そうだったんですか。……うわ、なんてきれいな方なんだ」
俺が感嘆すると、北原先生は「はは」と笑った。
「精神科と心療内科の専門医です。よろしく」
「はい、松永です。こちらこそよろしくお願いします。あ、名刺を……」
急いでスーツのポケットから名刺を取り出し、差し出した。
「お待たせしました。どうぞ」
名刺を受け取った先生は、すぐに目を通してくれた。
「ああ、あの自動車メーカーですね。一番の大手じゃないですか」
「まあ、なんとかですね」
俺が苦笑いしたその時、「ギャーーー!」と凄まじい悲鳴が響いた。
慌ててベッドへ駆け寄った。
「達也、どうした!」
「こ、こわかったー!」
達也は俺にしがみつき、大声で号泣した。
俺は彼を強く抱きしめた。
達也は震えながら、ワーワーと泣き続けていた。
「……なんで、今になって……」
一分でも早く忘れて欲しいのに__悔しくて涙が滲んだ。
「ああ、これはよくあることなんですよ」
北原先生が静かな声で言った。
「落ち着いてようやく現場を思い出し、恐怖がフラッシュバックしたのでしょう。
これも治癒の過程の一部です。そんなに心配はいりませんが、
今日あったばかりのことですので、今はゆっくり休ませるのが一番です」
「夏、鎮静をかけよう」
「はい」
「少し鎮静剤を打ちますよ」
俺は達也を抱きしめたまま一緒に横になり、片腕を押さえた。
理事も一緒に手を優しく押さえてくれる。
注射を打つと、1分もしないうちに、達也はすーっと眠りに落ちた。
俺はふう、と息をついた。
「かわいそうにね……」思わずそんな声が漏れた。
達也の頬を伝う涙を、そっとタオルで拭ってやる。
「本当にかわいそうですね。とんでもない被害に遭いましたね」
北原先生はそう言うと、名刺を差し出してくれた。
「今後は食欲がない、ずっと怯えている、
眠れない……そんな症状が続いたらすぐに電話をください。
普段は一般診療をしていませんが、お電話をいただけたら、いつでも診ます。
診断書が必要な時も連絡してください」
「ありがとうございます。本当に、いらしていただいて助かりました。
……正直、こちらまで怖くなってしまって……」
北原先生は温かな眼差しを向けてくれた。
「これからどうしようかな?
マンションに一人で帰すのも心配だしね」と理事。
「このまま荷物を持ってきて、
しばらくホテル暮らしをした方が安全じゃない?」と北原先生。
それなら本当に心強い。
「そうしてもいいですか? 部屋代は支払いますが、
しばらく一緒に過ごせるなら助かります」
こんなに達也がダメージを受けているなら、他の選択肢はない。
「じゃあ、そうしますか?」と理事が僕を見た。
「はい。いつパニックになるか分からないので、
一人にはできません」と僕は即答した。
「そうですね。ここなら夜間でも対応できますから、
ぜひそうしてください」と先生。
「お言葉に甘えさせていただきます」
「じゃあ、明日はマネージャーに、
荷物を全部運んでもらいますね」と理事。
「すみませんが、よろしくお願いします。
あ、部屋のカギをお渡しします」
達也のバッグから鍵を探し、理事に手渡す。
「では頼みます。私、明日は仕事を休んで達也を見守ります」
理事が温かな眼差しを向けてくれた。
「そうですか。……はい、ではよろしくお願いします。おやすみなさい」
二人には感謝してもしきれない。
俺もしばらくここに住もう。
達也がこんな目に遭ったんだ。
仕事なんて手につくわけがない。
明日まずは、荷物をすべて運ばないと……。
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