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第40話 達也サイド<記憶>
目が覚めたら、透真さんの腕の中にいた。
俺、どうしたんだろう?……思い出せない。
ここ、どこだろう。喉が渇いた。
そっと顔を横に向けると、ベッドわきのテーブルに水のペットボトルが見えた。
少し体の向きを変えようと動くと、
「ん? どうした?」
透真さんを起こしてしまった。
「……喉が渇いたの」
「待って。取ってあげるから」
わざわざベッドから起き上がり、俺の上半身を支えてくれる。
その背中に支えられながら、ストローで水を飲ませてもらった。
「……あと、トイレに行きたい」
彼が微笑む。
ベッドから起きようとすると、なぜかふらついて、一人では立っていられなかった。
立とうとするだけで頭が痛い。
「おっと。待って、連れて行くから」
抱え上げられて、そのままトイレまで運ばれた。
「ごめんなさい……」
彼は終わるまでドアの外で待っていてくれた。
「俺、どうしたのかなあ。なんだか頭が痛い」
「……どのあたりが?」
「後ろのほう」
彼が頭の後ろをそっと触れる。
「あっ、そこ。……痛い」
彼が悲しそうな目で俺を見ている。……何を考えているの?
「あとでお医者さんに来てもらうよ。診てもらおうね」
「うん。でも大したことないよ。薬を飲めばいいかも」
「わかったから、もっと休んでいよう。お腹は空かない?」
「ええ……と、どうかなあ。まだ空かないかなあ……」
「お粥があるよ。食べる?」
「ううん、まだいい」
そしてまた寝かされて、眠ることにした。
あ、聞き忘れた……。ここはどこだろう?
でも、そのまままた眠ってしまった。
そして人の声で目が覚めたら、目の前に知らない、すごくきれいなお医者さんがいた。
「達也君、目が覚めた? 俺は北原と言います。精神科と心療内科の専門医です」
「頭が痛いんだって?」
「うん」と頷いたつもりだったけれど、「あ、首も痛い」と手で押さえた。
先生が頭の後ろを触れると、「あっ、そこ……いてて……」
「昨日のことは覚えている?」
しばらく考えた。なぜか、どうしても思い出せない。
「……なんか、覚えてないの。思い出せない。
俺は昨日どこに行ったんだろう? ここはどこかな? 全然分からない」
「うん、わかった。もういいよ。今日は検査をいっぱいしようね。
痛くないから大丈夫だよ」
車椅子に座って、どこかに連れて行かれた。
透真さんが押してくれた。会社はいいのかなあ。
廊下をずっと通って、角を何度も曲がって、エレベーターに乗った。
ふと『菜の花赤坂クリニック』という文字が見えた。地下に降りたのかな。
「ここで先に、CTとMRIという機械で調べるね。
CTはすぐ終わるけど、MRIは音がうるさいんだよね。
そっちは30分ほどかかるから我慢ね」
「はい、分かりました」
なんだか首も痛い。……頷けなかった。
検査が終わったら、今度はエレベーターで上階へ行った。
そこにも『菜の花赤坂クリニック』と書いてあった。
上と下で分かれているのかな。
そこでレントゲンを撮り、血液検査や尿検査をした。
また、さっきのきれいな先生がいる部屋に戻った。
「おとといは何をしていたか覚えている?」
あれ? ___おととい……ってなんだっけ?
じっと考えたけれど、思い出せなかった。
「多分、仕事をしていたんだろうとは思うんですけど、
場所や何をしていたかと聞かれると分からないです。何で覚えてないんだろう?」
しばらくの間、先生は美しい目で俺をじっと見ていた。ちょっと照れる。
「あのね、君は一時的に記憶が抜けているようです。
でも、時間をかければふっと戻る時があるから、
無理に思い出そうとしなくていいですよ。歌手なんですって?」
「はい、そうです」
「歌詞やメロディーと踊りは覚えていますか?」
「ええと、なんだっけ……ちょっと聞けば思い出すかもしれないです」
「はい、分かりました。じゃあ、薬を出しておくので、ゆっくりしばらく休んでください。いいですか?」
「はい、分かりました」
「ちょっと廊下で待っていてください」
ナースの人が連れて行ってくれて、待合室で待っていた。
透真さんが中で話を聞いているみたいだ。
待合室には数人が待っていた。ここって、ゆったりしているんだなあ。
そのうちに、夏さんと桐生社長がやってきた。
「達也、具合はどう?」
「うん、なんか頭の後ろと首が痛いの。
今、透真さんが中で先生の話を聞いていると思う」
すると、二人は顔を見合わせ、診察室をノックして中に入っていった。
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