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第44話 透真サイド<張り込み>
興信所から電話があった。
「頭取の娘が毎月2回、葉山の別荘に行くようです。
それも、毎月第一と第三の金曜日に決まっているようです。
どうしますか? 少し接触されますか?
なかなか会う機会がなさそうですけどね」
「ああ……そうだね。よし、分かった。
俺も一緒に張り込んで様子を見るよ」
タイミングが良ければ、話してみようと思う。
当日、出張扱いにして会社を休んだ。
俺はSPの車にしか乗れないから、興信所の車と2台で連なり、葉山の別荘近くへ向かった。
興信所の人が別荘の門から、10メートルほど離れたところに車を停める。
SPには、なるべく近寄らないよう伝えた。
嫌な顔をしていたが、仕方ない。
しばらくして、白い車がやってきて別荘の門から中へ入っていった。
興信所の人からインカムで
「不思議なんですが、家の中には入っていませんよ」と連絡が入る。
え、どうなっているんだろう?
しかし、張り込みは続いている。
しばらくして「あ、幼稚園くらいの女の子と手を繋いで、離れから出てきました」
二人はそのまま車に乗り込み、出かけた。
「多分、海沿いのファミレスだと思うんですよ。
前もそこに行っていたので」
「じゃあ、そっちへ行こう」
ファミレスに入り、俺と興信所の人が二人で席へ向かい、
SPには少し離れた席に座ってもらった。
「今日だけですよ」と言われながらも、
SPの視界に入る範囲なら許容範囲だ。
窓辺に座った女の子はとても可愛い。
無邪気にお子様ランチを頼んでいた。
食べ終わるのを待っていた。
食事を邪魔するのは悪いからね。
終わった頃を見計らって、
俺だけでそのテーブルへ向かった。
向こうは俺の顔を見てすぐ分かったようで、
さっと顔色が変わった。
「どうしてここに?」
「百合さんですね? どうしても、本当の気持ちを聞きたかったんです。
だって、そちらにとっても政略結婚でしょう?
いいんですか、会ったこともない相手と結婚しても」
彼女はうつむいて、悲しそうな顔をしていた。
「お名前は何というのかな?」
女の子に話しかけると「ゆず」と答えた。
「ふうん、可愛い名前だねえ。誰がつけてくれたの?」
「ママだよ。ネッ?」
彼女の方を向いてにこっとしている。
百合さんは唇を一文字にして噛んでいた。
「事情を話してもらえませんか?
実は僕もすごく困っているんです。他に結婚したい人がいるんですよ」
「そうなんですね……。私はご覧の通り、子供がいます。
でも、内密にして結婚しろって父から言われたんです。
『結婚してから後で言えばいい』と言われて……。
卑怯だとは思ったんですが、この子に父親がいないのは可哀想だと思って……」
もう涙が溢れて泣いていた。
「お子さんのお父さんはどうしたんですか?」
「結婚を反対されて……。
彼は自由業というか、あまり稼げないので父がダメだと言ったんです。
どうしてもあなたと結婚するようにと言われて、もう方法がなかったんです」
「つまり、彼が稼げる人なら結婚してもいいということですか?」
「さあ……あなたとの話がある以上、どうにもなりません。私も諦めました」
「この結婚話って、誰がお父さんに持ちかけたんですか?
もしかして、うちの会社の叔父がお父さんに薦めたんじゃないですか?」
「え? どうして知っているんですか?」
「ああ……やっぱりそうですか」
一気に胸がモヤモヤした。
「分かりました。こうなった以上、まだ僕を知らないままでいてください。
僕がゆずちゃんのお父さんとコンタクトを取ってみます。
仕事がうまくいっていないなら、フォローして自活できるようにしますから。
僕を信じて待っていてくれませんか。
これを最後のチャンスだと思って、任せてもらえませんか?」
「良いんですか? そんなことをお願いしても」
「もうこうなったら、何が何でもうまくいくように最善を尽くします。どうぞ安心してください」
連絡先や住所を教えてもらった。
相手はイラストレーターをやっているらしい。
「ゆずちゃん、アイスクリーム食べる?」
「たべる!」
「じゃあ、どれがいいかな?」
いちごアイスを指で差していたので注文した。
「じゃあ、これで失礼しますが、途中経過や結果報告はしますから。
安心していてくださいね」
「はい、承知しました。どうもありがとうございます。よろしくお願いします」
連絡用のメールアドレスを教え、別れることにした。
「じゃあね、ゆずちゃん。アイスを美味しく食べてね。バイバイ」
「バイバイ!」
小さな手が振られていた。会計を済ませて車に戻る。
事情を興信所の人に伝えて、俺たちはすぐその場所へ向かうことにした。
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