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第45話 透真サイド<ゆりさんの恋人>

 ゆりさんに教えてもらった住所に着いた。 いきなりで申し訳なかったが、意を決して玄関のベルを鳴らす。 「はい。どちら様ですか?」 出てきたのは、色白で真面目そうな青年だった。 少し色褪せたTシャツを着ている。 「イラストレーターをされていますか? 私は松永と申しますが」 「え、え? ああ、そうですが、どういうことですか?」 「実は大事なご相談があります。怪しいものではありません」 名刺を渡すと、彼は戸惑いながらもそれを受け取って眺めた。 「実は、ゆりさんからお話を伺いました」 「え……? なんで今更なんですか?」 「混み入った話があるんです。 私自身もこれが最後のチャンスだと思っていて、あなたにお願いしたいことがあるんです。 どうか話だけでも聞いていただけませんか?」 「……分かりました。どうぞ、お入りください」 部屋は小さく、ベッドと大きな机、そしてパソコンだけが目立つ質素な空間だった。 「実は、私は親からゆりさんとの政略結婚を強制的に進められています。 ですが、どうしても他に結婚したい相手がいるんです。 それで今日、ゆりさんと初めて秘密裏にお会いして話を聞いたんです。 お子さんがいるのはご存じですよね?」 相手は真っ青になり、顔を引きつらせた。 「何ですって、子供ですか? いくつですか?」 「ごめんなさい、年齢を聞くのは忘れてしまいました。 多分、幼稚園くらいだと思います。 可愛い女の子で『ゆずちゃん』という名前だそうです。 ゆりさんが名付けたそうですよ」 「ゆず……」 彼はしばらく呆然としていた。 「ゆりさんのお父様が結婚に反対されたそうですが、 あなたは今、どのような仕事をされているのですか? どこか決まった契約先などはありますか?」 彼はうつむいた。 「それが、なかなか芽が出ないんです。 伝手もないですし、就職するには若くないから……対象外なんですよね」 「では、思い切ってあなたの作品を預からせてください。 プロとしてやっていけるかどうか、一流の人に判断してもらいます。 もし無理だと言われたら、その時はまた別の方法を考えましょう。 とにかく、今すぐ作品を貸してください」 彼はゆっくりと立ち上がり、 本棚からスケッチブックやファイルをいくつか選んで預けてくれた。 「アニメプラスという事務所をご存じですか?」 「はい、もちろん。ゲームやネットアプリで有名なところですよね」 「そこの理事や社長とは昨日も会ったばかりです。 作品を見てもらいますから、待っていてください。 あと、メールアドレスと電話番号も教えていただけますか? 明日か明後日までには必ず連絡します」 「はい、本当にありがとうございます。 ……あの、ゆりさんの子供に、一度会ってみたいのですが」 「分かりました。まずは先の見通しが立ってからにしましょうか」 「そうですね……分かりました。どうぞよろしくお願いします」 話がまとまると、僕は大急ぎで浅田タワーに向かった。 夕方になってしまうな。 理事にはあらかじめ電話を入れてある。 待っていてくれるそうだ。良かった。

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