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第47話 達也サイド<二人の夜>
ホテルの部屋に戻ると、ソファで佐々木マネージャーがウトウトとしていた。
「ただいま。お世話になりました、疲れたでしょう?」
「あ……ごめんなさい。ついうたた寝をしていました。
達也君は今日もほとんど眠っていて、薬の影響なんでしょうか。
食事がほとんど取れていないので、理事が点滴を2本してくれました。
あと、川瀬院長というナースの方が、これから時々様子を見に来てくださるそうです」
「ああ、そうなんですか……え? ナースの方が院長なんですか?」
「そうなんですよ。すごいですよねえ。
余程有能なんでしょうね。でも、面白い方でしたよ」
「うわあ、まいったな。あの北原総院長、なかなかの人物ですね。すごい!」
心底驚き、感心した。
日本でそんな人事をやる人がいるなんて。
なんと魅力的な人だろう。
「明日はお休みでしょう?」
「そうなんですが、副社長もお忙しいでしょう? 明日も来ますよ」
佐々木さんに頼み込み、明日の9時半に来てもらうことになった。
明日の面接には僕の結婚がかかっている。
絶対に外せない。
寝室へ向かうと、達也は目を覚ましていた。
「あれ、起きてたの? ただいま。お水、飲む?」
「うん、飲みたい」
上半身を起こし、背中を支えて飲ませる。
「トイレに行く?」
「……はい、お願いします」
「歩けるかな?」
「わかんないけど、起きてみる」
ベッドから足を降ろし、手を貸して立たせる。
しかし、達也の身体は少し不安定でふらついた。
「無理しなくていいよ。肩を貸すから、一緒に行こう」
「はい」
そろそろとゆっくり歩き、達也がトイレに入ると、僕はドアの外で待った。
警察の薬剤の特定検査の結果はどうなったのだろうか。――気になる。
達也の回復がこれほど遅れるとは思わなかった。
一体、何という麻酔薬だったのか。
どうしても知りたい。こんなにも長く影響が残るなんて。
ドアが開いて、達也が出てきた。
「達也、身体を拭いてあげようか?
それともシャワーを浴びる? 洗ってあげるよ」
彼はふふと笑った。
「もう……甘やかすんだから」
「それが楽しいんだからしょうがないよ。どうする?」
「うんと、じゃあ、シャワーを浴びたい。お願いします」
「いいよ。お湯を溜めるから、その間少しソファに座っていようか」
「達也、いい話があるんだよ」
「え、なあに? 聞きたい」
「今日ね、婚約者の女性と会ってきたんだよ」
「そうなの?」
「それでびっくり。子供がいたんだよ」
「え、なんで?」
「頭取が『結婚してから言えばいい』と言ったんだって」
「えー、悲惨……そんなことあるの?」
「うん。しかも、叔父がこの縁談を頭取に持ってきたんだって。うさん臭いだろう?」
「うん、それでどうなったの?」
「子供の父親の住所を聞いて、今日会いに行ったんだよ」
「ええ? まさか」
「相手はイラストレーターでね。収入が少ないという理由で、頭取が結婚を許さなかったんだって。彼は子供がいることさえ知らなかったんだよ」
「ふうん……そうなんだね。でも透真さんは、良いことをしたんだね」
「え、なんで?」
「うん。だって、子供という幸せを彼にあげたでしょう?」
達也の眼差しをじっと見つめた。
「……達也、子供が欲しい?」
「うん」
達也はうつむいた。
「そうか。いつか作ろうね」
僕は彼をそっと抱きしめた。
「さあ、お湯が溜まったかな。入ろう」
達也を浴室の椅子に座らせ、洗ってあげる。
なんて細いんだろう。以前よりもっと痩せてしまった気がする。
髪まで丁寧に洗い、ドライヤーをかけた。
「達也、もっと食欲を出して太らないと駄目だね。何か食べられる?」
「ううん、わかんない。冷たいものがいい。あ、スイカが食べたい」
「そうか、あるかもしれないな。
アイスクリームやプリン、ゼリーはどう?」
「スイカだけでいい」
「スイカだけじゃ、なかなか体力が戻らないよ」
僕は少し嘆いてみせた。
「だねえ」
達也は他人事のようにニヤッとしている。
「でも、朝より少しは元気が出てきた?
あ、点滴が良かったのかも。そうじゃない?」
「うん、そうかも。そんな気がする。明日もやってくれるかなあ?」
「いいよ。お願いする。理事に処方してもらうね」
ルームサービスでスイカを持ってきてもらった。
僕はカレーを食べる。
「達也、カレーの匂いに刺激されて、食べたくなったりしない?」
「ううん、全然。スイカ、美味しい」
ふ、失敗した。
でもスイカを食べて満足したらしい。
「透真さん……一緒に寝たい」
「うん、寝よう」
腕枕をすると、達也が胸に顔を寄せてきた。
「いい匂いがする……」
彼はくすっと笑った。
「今日は何を考えながらベッドにいたの?」
「ええとね、頭の中で歌の振りを思い出そうとしていたの」
「え、覚えてないの?」
「うん」
唖然とした――そんな馬鹿な。薬の後遺症だろうか。
「大丈夫だよ。また覚えればいい。まだ一曲目でしょう?」
「うん、だからいいよね?」
「ああ、いいさ。もし歌手としてやっていけなくても、僕が面倒を見るから大丈夫だよ」
達也がぷーっと笑う。
「なあに?」
「だって、これで面倒を見てくれる人が二人になった。うれしいな」
「誰にそんなことを言われたの?」
「立花颯太さん」
「はあん、ミツワのねえ。じゃあ分かった。彼に任せるよ」
「ダメーーーっ!!」
ぎゅっと胸にしがみついてきた。いいねえ。
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