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第53話 透真サイド<ニュースの嵐>

 翌朝、加藤弁護士がアニメプラスに来てくれた。 にこやかな彼の表情に、こちらも笑顔になる。 いや、今日は俺の顔が緩んでいるのかもしれない。 「一緒に役所まで送迎しますよ」 理事がそう言ってくれた。 残念ながら達也はまだ車椅子だが、手を貸せば歩ける。 「達也、実印や保険証、マイナンバーカードは全部持った? 通帳もありったけ持ってきて」 「もう~俺、通帳なんて一冊しか持ったことないもん」 ちょっとぷっと頬がふくれた。 そうか、笑みがこぼれる。 俺の車に達也とふたり。 理事の先導車には佐々木マネージャーと弁護士が乗り込んだ。 ……ちなみに理事は、前にSP二名と後ろに一人だ。 役所の戸籍係へ行くと、加藤弁護士が婚姻届を提出してくれた。 係の人や周りのスタッフたちが俺たちを見て、 「あ、えっ……?」と呆然と皆が席を立って凝視する。 「あ、浅田理事がいるから目立つんですねえ」 俺が理事に耳打ちすると、 「俺、余計だったかなあ?」と彼はふっと笑った。 だが、もう手遅れだ。 「お疲れ様です。ただいま婚姻届が受理されました。 ご結婚おめでとうございまーす!!」 周囲からわーっと拍手喝采が沸き起こる。 大げさな気もして少し照れくさい。 結婚したのは浅田理事じゃないんだけどね。 でも、達也の手を強く握りしめた。 「そこで戸籍謄本……あれ? 住所はどうしましょう」と弁護士 「達也、とりあえず住所は僕のマンションにしていい?」 「うん、いいよ」 よし、これで問題ない。 変更できるものはどんどん進めていく。 達也は、松永達也になった。うれしい。 理事がアニメプラスへ連絡を入れている横で、俺は会社の秘書にメールを送った。 すぐにホームページで発表してくれるはずだ。 ー*- 【ご報告】弊社取締役副社長 松永透真の婚姻に関するお知らせ 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 本日、弊社取締役副社長である松永透真が入籍いたしましたことをご報告申し上げます。 お相手は歌手として活動されております吉沢達也氏となります。 なお、今後の活動や詳細につきましては、それぞれのステージにおいてより一層精進してまいりますので、温かく見守っていただけますと幸いです。 皆様におかれましては、今後とも変わらぬご指導とご鞭撻を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。 ー*- 今頃、会社中が蜂の巣をつついたような騒ぎになっているだろう。 父にも電話を入れる。 「もう結婚できたのか?」 「はい、お陰様で。受理されました。ありがとうございました。 達也が回復し次第、挨拶に連れて行きます」 「ああ、食事でもしよう。あ、弟が飛んできたらしい。またな」 父の言葉に、深いため息が出るが、慌てふためく叔父の姿を見てやりたい。 しかし、それは今度にしよう。 とりあえず父に室内の録画を頼んでいるので、後日ゆっくりと酒の肴にして見ようかな。 その間に理事がSNSスタッフへ、一斉に指示を出してくれた。 続いて銀行の通帳名義変更の手続きだ。 取引先が同じ銀行だったので、 電話一本で先方がこちらへ来てくれることになった。 達也は通帳を一冊しか持っていないのに、特別待遇だ。 きっと先方は相当拍子抜けするだろう。 「そうだ、達也。印鑑も作り直さないと駄目だよ」 「あ、そうだ! 全然考えなかった」 「こちらで購入しておきましょうか? それがないと通帳の名義変更はできませんから」と加藤弁護士。 ああ、そうだった。また銀行へ電話を入れる。 どうも今日は少し浮かれすぎているようだ。 皆で浅田タワーへ戻り、ランチはホテルのレストランへ向かった。 「達也、何か食べられる?」 「うーん、分からない。お蕎麦とかうどんだったら食べられると思う」 「じゃあ、天ぷらうどんのセットにしようか?」 和食のレストランに入り、皆で乾杯をする。 ノンアルコールではあるが、達也の幸せそうな表情を見せてくれて、 本当に良かったと心から思う。 「透真さん、俺、透真さんのマンションを見てみたい」 みんなが「えっ?」とこちらを見た。 「ああ、そうだね。……どうしよう、もうホテルを外れてもいいのかな?」 俺がそう切り出すと、桐生さんが待ったをかけた。 「うーん、どうかな。でもマンションに戻ったら、 掃除や料理などの家事はどうするんですか? 日中に一人になるのは危ないですよ」と桐生さん。 「そうですよね。一応ペントハウスで、直通エレベーターだし、 指紋認証でないと開かない仕組みにはなっているんですが」 「へえ~」と皆の声が揃う。 「それと家政婦さんが一人います。私が小さい頃から実家にいた人で、 マンションに移る時に付いてきてくれた人なので、安心だと思います」 「ああ、そうなんですね。それならいいのかな?」と理事。 「いや、ちょっと待ってください。やはり駄目ですよ」 佐々木マネージャーが険しい顔で首を振った。 「一回見に行くだけならいいですが、 まだ体調が完全に回復していないし、リハビリを始めたらバテるはずです。 往復は短い方が楽ですよ。 第一、犯人がまだ見つかっていないんです。 最低でもあと一か月はホテルにいた方がいい」 俺は苦笑した。 多分、隣にいる達也と、悪戯が見つかった子供のような顔をしていたと思う。

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