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第57話 達也サイド<副社長夫人の掟>
昨夜は透真さんと甘い夜を過ごした。
余韻が残って困る。
だって、やさしいんだもん。
朝食後、ペントハウス回りの屋上ガーデンを見ることにした。
透真さんと眺めながら散歩するのが、すごく楽しい。
昨夜の夕飯は、リクエストして牛丼にしてもらった。
俺、大好きなんだ。
前に立花家でご馳走になったんだけど、それが美味しすぎて忘れられない。
でも、美代さんが作ってくれた牛丼は超豪華!
ああ~誰かに見せたい。
お肉がてんこ盛り……と言うか、
おかわりができるように、小鉢にも牛肉がたっぷり添えてあった。
これも牛丼って言うのかなあ?
分からないけど、笑いが止まらない。
透真さんがそんな俺を見てクスクス笑っていた。
「そんなに好きだったの?」
「うん。立花家の夕食会でご馳走になったのが忘れられなくて。
俺、牛丼を知らなかったし、食べたことがなかったから」
「そうなんだね。いつでも食べたいものを言って。作ってもらうからね」
「はい、もちろんです。なんでもお作りいたしますよ」
美代さんが優しく微笑んでくれた。
散歩の後、「一緒に行くところがある」と言われて出掛けた。
もう車いすは要らなかった。
着いた先は、銀座のテーラーだった。
重厚な構えで、既製品が並んでいる店とは雰囲気がまるで違う。
「ここでスーツを数着オーダーするからね」
透真さんの服をそっと引っ張った。
「なに?」
「なんか高そうだよ……俺はこんなに高級じゃなくていいの」
「それは駄目。僕と一緒に歩くんだから、合わせないとおかしいよ」
(へっ、そうなの?)
見た目で誰が分かるっていうの? と内心思ったけれど___わかるのかなあ?
とにかく目を丸くするばかりだった。
マネキンになったつもりで布地をいろいろ肩に掛けられ、
透真さんはベテランらしきスタッフと打ち合わせを始めた。
「達也が治ったら、近いうちに会社関係の重役たちを集めて、お披露目のパーティーがあるんだ。だからちゃんと揃えないといけないよ」
「はい、分かりました」
冬用で、スーツを4着、ブレザーを2着、ズボンも3本。フォーマルスーツを2着。
夏用で、スーツを2着、ブレザーを2着、ズボンを3本。フォーマルスーツを2着。
そしてワイシャツも多数。
もう恐ろしい……。値段なんて聞けない。店ごと買うの??
背中に冷や汗がたらたらと流れる。怖すぎる。
ああ、もうこれでクローゼットがいっぱいだよ。
普段着を買うために百貨店に行こうと言われた時は、それだけは断固お断りした。
「事務所と契約したスタイリストが洋服を持って来てくれるの。
外でもそれを着ないといけないって言われてるから」
「あ、そうなんだ。じゃあ、今度は靴を買いに行こう」
またまた紳士靴の高級そうな店に連れて行かれた。
もう値段を見るのも嫌……。
透真さんは店主にさっさと注文を伝えている。
ソファに座っていると、靴がずらっと並べられた。
「さあ、頑張って。ここで終わりにするからね」
「そう?」
しょうがないからいろいろ履いてみて、
合うものを透真さんが決めていった。
結局、スーツ用黒靴3足、茶色1足。フォーマル用黒靴2足。
カジュアル用3足(茶色・黒・ベージュ)。
もう~どこに置くの??
そう言えばあの家は靴をどこに置いてるんだろう?
見なかった。
内心そう思っていたら「全部お届けします」だって。
オーダースーツはそのうちに仮縫いがあるそうだ。
もうイヤ……身が縮む。
今日くらい疲れた日はなかった。
「透真さん、俺、帰りたい」
「うん、疲れたの? よし、帰ろう」
帰宅してどっと疲れが出て、そのままベッドに横になった。
「ごめんね、連れ回しちゃって」
「ううん、いいの。ただ俺が慣れてないだけなの」
「そうだよね。一気にやっちゃったからね。
でも僕が跡継ぎだから、これからは色々対外的な付き合いが出てくるんだよ。
義理でパーティーに出なくてはいけないこともあるしね。
僕と結婚したことで負担をかけて悪いけど、なんとか頑張って慣れてほしいんだ」
「はい、分かりました。少しずつ慣れます」
「うん。ありがとうね。それともう一つある」
ギクッとした。
「え、なあに?」
「英語の勉強をしてほしい。どうしても必要なんだ。
空いている時間に家庭教師をつけるから、頑張って始めてくれない?」
「……」両手で耳を塞いだ。
「ねえ、達也。分かって。そうしないと達也が恥をかくんだよ。だからお願い!!」
足をバタバタさせたけれど、結局は渋々答えた。
「はい、分かりました」
「ありがとうね、達也、愛してるよ」
ブチューっとキスをされたけれど、
そんなんじゃごまかされないぞ。
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