57 / 72

第57話 達也サイド<副社長夫人の掟>

 昨夜は透真さんと甘い夜を過ごした。 余韻が残って困る。 だって、やさしいんだもん。 朝食後、ペントハウス回りの屋上ガーデンを見ることにした。 透真さんと眺めながら散歩するのが、すごく楽しい。 昨夜の夕飯は、リクエストして牛丼にしてもらった。 俺、大好きなんだ。 前に立花家でご馳走になったんだけど、それが美味しすぎて忘れられない。 でも、美代さんが作ってくれた牛丼は超豪華! ああ~誰かに見せたい。 お肉がてんこ盛り……と言うか、 おかわりができるように、小鉢にも牛肉がたっぷり添えてあった。 これも牛丼って言うのかなあ? 分からないけど、笑いが止まらない。 透真さんがそんな俺を見てクスクス笑っていた。 「そんなに好きだったの?」 「うん。立花家の夕食会でご馳走になったのが忘れられなくて。 俺、牛丼を知らなかったし、食べたことがなかったから」 「そうなんだね。いつでも食べたいものを言って。作ってもらうからね」 「はい、もちろんです。なんでもお作りいたしますよ」 美代さんが優しく微笑んでくれた。 散歩の後、「一緒に行くところがある」と言われて出掛けた。 もう車いすは要らなかった。 着いた先は、銀座のテーラーだった。 重厚な構えで、既製品が並んでいる店とは雰囲気がまるで違う。 「ここでスーツを数着オーダーするからね」 透真さんの服をそっと引っ張った。 「なに?」 「なんか高そうだよ……俺はこんなに高級じゃなくていいの」 「それは駄目。僕と一緒に歩くんだから、合わせないとおかしいよ」 (へっ、そうなの?) 見た目で誰が分かるっていうの? と内心思ったけれど___わかるのかなあ? とにかく目を丸くするばかりだった。 マネキンになったつもりで布地をいろいろ肩に掛けられ、 透真さんはベテランらしきスタッフと打ち合わせを始めた。 「達也が治ったら、近いうちに会社関係の重役たちを集めて、お披露目のパーティーがあるんだ。だからちゃんと揃えないといけないよ」 「はい、分かりました」 冬用で、スーツを4着、ブレザーを2着、ズボンも3本。フォーマルスーツを2着。 夏用で、スーツを2着、ブレザーを2着、ズボンを3本。フォーマルスーツを2着。 そしてワイシャツも多数。 もう恐ろしい……。値段なんて聞けない。店ごと買うの?? 背中に冷や汗がたらたらと流れる。怖すぎる。 ああ、もうこれでクローゼットがいっぱいだよ。 普段着を買うために百貨店に行こうと言われた時は、それだけは断固お断りした。 「事務所と契約したスタイリストが洋服を持って来てくれるの。 外でもそれを着ないといけないって言われてるから」 「あ、そうなんだ。じゃあ、今度は靴を買いに行こう」 またまた紳士靴の高級そうな店に連れて行かれた。 もう値段を見るのも嫌……。 透真さんは店主にさっさと注文を伝えている。 ソファに座っていると、靴がずらっと並べられた。 「さあ、頑張って。ここで終わりにするからね」 「そう?」 しょうがないからいろいろ履いてみて、 合うものを透真さんが決めていった。 結局、スーツ用黒靴3足、茶色1足。フォーマル用黒靴2足。 カジュアル用3足(茶色・黒・ベージュ)。 もう~どこに置くの?? そう言えばあの家は靴をどこに置いてるんだろう? 見なかった。 内心そう思っていたら「全部お届けします」だって。 オーダースーツはそのうちに仮縫いがあるそうだ。 もうイヤ……身が縮む。 今日くらい疲れた日はなかった。 「透真さん、俺、帰りたい」 「うん、疲れたの? よし、帰ろう」 帰宅してどっと疲れが出て、そのままベッドに横になった。 「ごめんね、連れ回しちゃって」 「ううん、いいの。ただ俺が慣れてないだけなの」 「そうだよね。一気にやっちゃったからね。 でも僕が跡継ぎだから、これからは色々対外的な付き合いが出てくるんだよ。 義理でパーティーに出なくてはいけないこともあるしね。 僕と結婚したことで負担をかけて悪いけど、なんとか頑張って慣れてほしいんだ」 「はい、分かりました。少しずつ慣れます」 「うん。ありがとうね。それともう一つある」 ギクッとした。 「え、なあに?」 「英語の勉強をしてほしい。どうしても必要なんだ。 空いている時間に家庭教師をつけるから、頑張って始めてくれない?」 「……」両手で耳を塞いだ。 「ねえ、達也。分かって。そうしないと達也が恥をかくんだよ。だからお願い!!」 足をバタバタさせたけれど、結局は渋々答えた。 「はい、分かりました」 「ありがとうね、達也、愛してるよ」 ブチューっとキスをされたけれど、 そんなんじゃごまかされないぞ。

ともだちにシェアしよう!